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仕組まれた夜 ページ27




それが何に対する謝罪なのか、分からなかった。

Aの顔色は狼狽と言う文字よりは突然抱きしめられたことに驚いて、ただ呆然としていると言う方が正しい。そしてその頬は紅色に色づき、艶やかだ。


涙で濡れた目元を灰崎は親指の腹で優しく撫でる。


「今日はもう寝ろ、分かったな」


闇よりも純度の高い黒髪を褐色肌の手で撫で付けるとAは擽ったそうに片目を瞑る。

そして最後に、神経を慰撫する優しい声でそう言うと、灰崎は横に流れた前髪を片手で撫でるように払う。そして、露になった白いその額に顔を近づけて


「えっ……」


___そっと唇を寄せた。


渇いた大地が降りそそぐ雨の雫を受けるときの、銀の鈴を鳴らすようなリップ音が響きわたる。


灰崎が伏せていた瞼を開けると

髪の毛の根元まで赤く染めて震わせる

Aと至近距離で目が合う。


「柔らかいな、髪」

「あっ……あっ」


頭を優しく撫でながら灰崎が呟くと

言葉にならない声がAの口から零れる。


再び潤んだ瞳で灰崎を見上げるも、優しいその眼差しを前にすると恥ずかしそうに視線を逸らす。

それを何度も繰り返すうちに耐えられなくなったAは、飛び上がるようにして灰崎から離れると、タオルを持つのも忘れてロビーから駆け出した。





Aのいなくなった静かな空間で

灰崎は、彼女が持ち忘れたタオルを

掴むと寂しげな眼差しを見せる。


「灰崎くんにしては 随分大胆な行動をとるんだね」

「……野坂」


ずっと話を聞いていたのだろう。柱の後ろから姿を現した野坂は、肩を竦めると自販機の前に立ち、何食わぬ顔でお金を入れてジュースを選ぶ。


「それにしても、いくら頼まれたからって好きでもない子にあんなことをするなんて。君はあの頃から本当に何も変わっていない。それとも、泣いてる彼女に同情でもしたのかな?」


「……うるせえ、そんなんじゃねぇよ」


その横顔は灰崎からの位置では見えない。声の調子からしていつもの野坂ではあるがどこか愁いを帯びている、そんな気がしてならなかった。


「それで、何かわかったのかよ」

「ああ。僕の予想が正しければ……だけどね」


スイカジュースを手に取り、ぷしゅと

小さな音を立ててプルタブを引いた

野坂は炭酸の泡のように出てくる汁を

無機質な瞳で見据えると口元へ運んだ。


(今更ながら、Aちゃんの男の趣味を疑うよ)
(それは…振り向いてもらえないお前のやっかみだろ)
(そうかもね)

顔向け→←謝罪の理由



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設定タグ:イナズマイレブン , 灰崎凌兵 , 吉良ヒロト   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年5月15日 0時

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