【ヴィランズ手下】人魚姫は囚われる【ファッショナブルイースター】 (ページ10)

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ふっと、手を眺めていたジョーは何かに気づいたかのように上空を見上げた。そんな彼に気づいたAは心配そうに近づくとジョーの顔を覗き込む。

「ジョー？どうかしたの？」
ジョー「ん………あぁ………ちょっと悪い。ここで待っててくんねぇか」
「え？うん………けどどうして？」
ジョー「少し野暮用ができてな。すぐ終わらせるが、何かあったら俺の名前を呼べ。わかったな？」
「もう、心配症ね。ほらほら早く行きなさい。」

ジョーはAにぐいぐいと押されて無理矢理足を踏み出すと、「絶対動くなよ」とだけ言い残してどこか名残惜しそうにその場を後にした。

そして、取り残されたのはA1人。

ちょこん、と大きめの岩に腰をころすと、波の音だけが微かに聞こえてきた。

海からはこんな音がするのね………自身の住処であるはずなのに、知らないことばかりだ。
今日は人間界に来て初めて海を眺めた。海面は毎日深海から見ているはずなのに、日差しに照らされてそんなにも綺麗に光り輝くだなんてことすらも知らなかったし、潮の香りがこんなにも心落ち着かせるものだなんても知らなかった。

どれだけ身近なものでも知らないことがあるのね。
言い知れない高揚感に溢れたAは再び立ち上がると、すぅっと息を吸い込む。

そして、その高揚感をそのまま言葉にして高らかに歌い上げる。

信じられる？こんなに海はこんなに広くて素敵
貴方に見える？人間の世界はこんなにも気づかせてくれる

どちらも私の宝物

もっと、見たい

そんな思いを吐き出すように歌い上げるとAは満足感に包まれて微笑みを浮かべる。

やっぱり、楽しい時には歌うのが1番だ。

そんなことを思っていると、突然背後から拍手の音が聞こえてAはびくりと肩を震わせた。
それは思ったよりわかりやすいものだったようで、相手は驚いたような顔をして訂正の念を込め手を振る。

？？？「怖がらないでくれ。君の歌が聞こえて………」
「私の、歌？」
？？？「あぁ、とても素敵だった。聞こえた瞬間からもういてもたっても居られなかったんだ。」

警戒心が解けたAは興味深そうに相手に近づいた。

短く切られた髪に、ラフなブラウスと黒いズボンを見に纏った男性………間違いなく人間だ。

初めて本物の人間を見るAには、また新たな好奇心が生まれていた。