ライブ開始五秒前 ページ31
「おい、羽風…先輩遅ぇぞ！…ん？Aも一緒だったのか…って、テメ〜何で濡れてんだ？！」
「あーもー、わんちゃんは怒ったり驚いたり忙しいなぁ？」
戻るなり大声で感情を起伏させる晃牙にひらひらと言葉をかける羽風先輩。
そんな忙しい晃牙はわんちゃん、と呼ばれたことに不満を叫ぶのに手一杯で先程の疑問も忘れたのだろう。
そして、それはきっと羽風先輩の計算通りなのだろう。すごいなぁ、と思った。
微笑ましくそこを眺めていれば朔間先輩がこちらを見ていることに気が付いた。
目があったのでどうしたのですか、と声を掛けると頭を下げられた。
突然のとこであたふたしながら、とにかく頭をあげて貰う。誰にも見られずに済んだのが幸いというか。
頭を上げた朔間先輩は目を合わせてくれて話始めた。
「我輩は嬢ちゃんを危険にさらしてしまったのかと思うて…学院の知識人を名乗っておったのにこの程度の事態を予測できず…注意が足りんかった」
「そんな、先輩が謝ることじゃないです…！私の不注意ですしご迷惑をお掛けしてしまって」
そんな言葉で飾ればじゃが…といつもの覇気がどこかへ逃げてしまったような声が耳へ届く。
違う。届けないといけない言葉は、向かわせたい気持ちはそこじゃないだろう。
それを遮るように放たれた声は意外な方向から飛んできていた。
「朔間先輩。」
「アドニスくん？どうしたんじゃ？」
「出過ぎた行為だと承知ではあるが…少し良いか？」
躊躇いがちに話す乙狩先輩を優しく促す朔間先輩。
「なんじゃ？」
「聞こえた話からして朔間先輩もAも悪いことはしていないのだろう？なら、思ったことを言ってみるのはどうだろうか。俺自身もMCの練習で気持ちを言葉にすることで心を整理することができた」
思っていること、か…俯きがちになる全へと向き直り、息を吸い込む。私は途切れ途切れの言葉を繋いだ。
「あの、迷惑なんて全く思ってません…寧ろ、勉強…経験になりました。それに、私、…この仕事を引き受けて良かったって思いました…！だから、その…そんな悲しい顔しないで欲しいです…折角のライブですから…！」
言い切ると先輩は目を丸くしたがすぐに細め、いつものように微笑んで頭に手を置く。
「我輩も、いや、我輩たちも嬢ちゃんが担当でよかったと思っておるぞ」
先輩にいつもの笑顔が戻ったところでライブが始まるようだった。
呼ばれた面々は歩き出す。最後の晃牙が足を止め私に囁いた。
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作者名：ぽあぷるーじゅ。 | 作成日時：2018年2月12日 13時
