【あんスタ短編集・完全趣味】 (ページ21)

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君が知る時。4 ページ21

茨side

ここ数日毎日のように、まぁよくも懲りずに彼女は通ってきた。

給料を上げろと要求するでもなく、残業を減らせと不平を垂れるでもなくただ、意味のわからない充電とやらをしに。

この程度でこれだけの成果を上げてくれるのならば、安いものだろう。

ただ、彼女の行動は微塵も理解が出来ない。隠された意図があるのではと勘繰ってしまうのは自分の悪い癖だ。

今日はその彼女の企画のプレゼン当日だった。
だった、と表現したのは昼間にとうに終わっていて、今の時間は退社時刻を大幅に過ぎていたからだ。

いつもは彼女が会いに来るのだが、今日はその時間を一時間以上過ぎても来ない。
どうしたのだろうか、と思考を巡らせたところでそもそも毎日来ていたという事実の方が可笑しいのだということに気がついた。

当たり前になり過ぎて気が付かなかったが。
第一ひとつの山場を越えたのだ、充電がそのままの意味ならばその必要も無いだろう。

会いに来ない理由を正当化させながら、けれど帰路のついでに彼女のデスクを覗くと突っ伏している人がいた。

「…何をしてるんです？」

「わあ、茨くんだぁ～」

彼女は机に頭を乗せたままこちらへと振り返りへらっと笑う。
それはいつもとは比べ物にならないほど弱々しかった。

「茨くんだぁ、じゃあありませんよ。」

「えへへ……う……うっ……」

にこにこと笑っていた彼女だったが、笑い声に嗚咽が混じってくる。それでも笑顔の形は変えようとせず、無理に繕おうとしているのが伝わってきた。

どうしたら良いのかもわからず、取り敢えず飲み物を取りに行こうとすると手を掴まれた。

「ちょっと、だけ…でいいから、傍に居て…」

呼吸の浅く、か細い声で吐き出される弱音。

「いいですけど、とにかく泣き止んでくれません？何があったのかもわかりませんし。」

きっと彼女も最早何が何だか分からなくなっていたのだろう。
『じゃあキスしてよ』
自暴自棄も顕著なその言葉に逆らう事無く、素直に受け入れた自分がいた。

なんてね、すぐ泣き止むから…

といつも以上に流暢に弁明する口を迷わず塞いだ。