太宰夫婦は何処か冷めている。【文豪ストレイドッグス】

逃ゲル者ト残ル者 ページ22

「......Aさんッ!?」

「なンで貴女が此処にッ」


やっぱりバレてしまったか。
先程迄は沢山の人の中に紛れ込み、姿を成る可く隠していたから、人虎達は私が此処に居ると云う事に気付かなかったのだ。

それが今では、もう残った人数がたったの四人だけになっていた。これで気付かない方が逆に可笑しい。
然も、人虎達は私が異能を使えるなんて知らないから、一般人が二人もこんな危ない場所に残っていると思っているだろう。


「......わ、私は会社の同僚と逸れてしまいまして」


適当に此処に居る訳を考え乍、私はもう一人残った人物をチラリと見た。
年齢は凡そ四十代位、黒い髪を無造作に下ろしていて、白い白衣に身を包んでいる。体格は細身で、弱々しげな雰囲気を醸し出した中年の男性だった。けれど、私はこの人物に酷く見覚えがある。

＿＿真逆、又会うとは思わなかった。

向こうの方も私の視線に気づいたのか、視線と視線が交差した。
人虎も其の人物を見たら、私達にしか聞こえない小さな声で「此処は危険です。二人共逃げた方が佳い」と、逃げるように勧めてくれる。危険な目に遭わせたく無い優しさは解らなくもないが、当然私は首を横に振った。


「女の子を捜して居るんだ」


白衣を着た男も、此処から逃げるつもりは無いみたい。如何やら人を捜しているらしく、人虎と私、其々に写真を交互に見せ「天使の様に可愛い子なのだよ。何処かで見なかったかな」と、若干涙声で尋ねてくる。

人虎は当然写真の人物を知らないし、見た事もないから首を横に振る。私も、写真に写っている人物が誰なのかは知っているが、行方は知らない為、緩々首を横に振り“知らない”と伝えた。


「エリスちゃんと云う名でね、もう目に入れても痛くない位愛らしいのだよ! あ、本当に入れたら少し痛かったがね。兎に角この娘と逸れて 私はもう気が気で無くって......」


大分この人の『エリスちゃん』話が長くなりそうだ。此の話を真面目に聞いていたら、多分私は途中で眠っていると思う。


「あの扉の向こうに居るかも知れない。若しそうなら 今逃げたら私は一生後悔する＿＿__だから、私も残るよ」

「......判りました。Aさんも、残りますか?」


彼の話を聞き終えた人虎は、渋々ではあるが了承した。
そして、今度は私の方に其の瞳を向ける。紫がかった黄色の瞳を真っ直ぐに見詰め、私はゆっくりと頷いた。

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