Mysterium historia -ミュステリウムヒストリア-【派生作品】 (ページ7)

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透明少女と彼女の人外【ライラ】ページ7

ある日の朝だ。

「ガスパー」

そう、声をかけた。
おはよう、って言うために。その後にはご飯出来たよ、食べようって続けるつもりでいたのだ。
その時私は存在していたのだろう。
けど、ガスパーが振り向いた時には。

「ライラ？」

きっと、消えていたのだと思う。

私は目の前にいるのにも関わらず、いないかのように怪訝な顔をしているガスパー。
冷や水を浴びせられたような気分になった。
私は今、ここにいるのにいない存在なのだ。
いつもの事だと、笑い飛ばすことは到底出来そうにない。

「ここにいるよ」

届かないと承知で言ってみる。当然聞こえていないようだ。
手を、伸ばした。空を切る。
ああ、嫌になる。なんなんだこれは。自分の手を見つめた。私には見える。私が見える。影もある。床に人形のそれは落ちている。なのに、私はこの世界にいなかった。

全く、最悪な気分だ。

「おい、ライラ！」
どうしたのガスパー。

「どこ行った！?」
私はここだよ。

「出てこい！！」
ここだってば。

「返事しろー！！」
してるよ。

きょろきょろと辺りを見回して叫ぶガスパーに、聞こえないと分かっていても、返事を言わずにはいられなかった。
そして、なんだか居た堪れなくなる。
ごめん、ごめんねガスパー。私はここにいるんだよ。

掃除の手が行き届かない埃っぽい部屋の隅に私は腰を下ろした。
顔を膝に埋める。
泣きたかった。
悲しいのと、嬉しいのと、苛立たしいのと、感情が入り混じって破裂する。
私の頬を滑り落ちる温かな雫。
遠くからは何かをひっくり返したような物凄い音が聞こえてきていて、きっとガスパーが私を探しているんだろうなと思った。
馬鹿だなあ、そんな所に私はいないよ。

寂しくて辛いのもそう、探してくれて嬉しいのもそう、よく分からないまま涙を流していた。

「うぅ、ぇっ、ひっく、ぅあ」

どうせ泣いたって誰にも見えも聞こえもしないのだが、蹲って小さくなった。
外に漏れるのを恐れるかのように、体を丸める。

「ぁ、わたしっ、ここ、だよぉ」

小さく小さく呟いた。もう、それが何度目かなんて分からなかった。