透明少女と彼女の人外【ライラ】 ページ5
どうやら、彼は研究者である養父をもってしても見たことがない珍しいスライムらしい。
「研究サンプルとして体をくれ！！」と興奮する養父を宥めるのは骨が折れると思ったのだが、彼も彼で「いいぜ！」なんて答えてしまったので取り越し苦労となった。
本当に体をちぎっていたのだが、彼はそれでいいのだろうか、と何とも言えない気分になったことを思い出す。
そして、事が発覚したのは夕食の時だった。
「え、名前がないの？」
養父が狂喜乱舞して部屋に篭ってしまったので、二人で食事をしていたのだが、私が聞き忘れていたと名前を聞いたところ、あっさりとそんな答えが返ってきたのだった。
「おう！ てか、ナマエってなんだ？」
「そこからなのか……」
やっぱり見た目がどんなに人間らしくとも人外なのだな、と思う。
うーん、と頭を悩ませながらしどろもどろになんとか言葉を紡いで伝えようとする。
「名前っていうのは、何かを呼ぶときに必要なものかな。他のものと区別をつけるためにあるもの。大切なものだよ」
あんまりにもあるのが当たり前すぎたので、説明をするのは本当に難しかった。
彼も「へー」なんていう分かったのか分かってないのかよく判別出来ない返事をしている。多分分かっていないのだと思う。
「じゃあさ、オレにそのナマエっていうのをくれよ」
「へ？」
そんな突拍子も無い言葉をかけられて、マジマジと目の前の人外の顔を見つめる。
本気なのか、冗談なのかよく分からなかったが、多分本気なんだろう。冗談なんて概念を知っているかも怪しいのだから。
「ええと、私がつけてしまっていいの？」
だから、私はそう聞くしかなかった。返事なんて分かりきっているのに。
「おう！ いいぜ！」
予想通りのいい返事だ。たらり、と冷や汗が背中を伝う。
そんな、人に名前をつけるなんて重要なことをやってしまっていいのか、人じゃないが、いや、私十歳だぞ？ などと頭の中はぐるぐると思考で埋まっていく。
私の困惑などには気づいた様子もなく、目の前の人外の目はキラキラしていた。
「う、うーん……」
こんなにも期待してくれているのだ、何か、何かないかとなけなしの知識をひっくり返す。
ふと、脳裏にある絵本が思い浮かんだ。幼少期に気に入ってよく読んでいた、真っ白な兎と真っ黒の兎が出てくる作品で、確か、黒い方の兎の名前は……。
「……ガスパー。ガスパーなんてどうかな？」
透明少女と彼女の人外【ライラ】→←透明少女と彼女の人外【ライラ】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：氷渡ミオ | 作成日時：2018年9月14日 23時
