私たちは嘘をつきました【紫】 (ページ26)

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ザザ…ン…

辺りはしん…としており波の音だけが聞こえる。

目の前には海が広がっていた。

陽が沈んでしまった海の色はもう青い色じゃなく黒くて。何だか重たい気がした。

そして生憎の曇り空なので星も全然見えないし、

まるで私の心の中みたいだ。

気づいたらここにいた。あんまりあの後のことは覚えてなくて、たぶんタクシーで来たんだと思う。

…寒い。まだ秋だと思っていたのに限りなく冬に近いのだろうか。それとも今はもう冬？

海にいるから特に風が冷たく感じて思わず身震いをした。

コート、着てくればよかった。

まさか朝の私は夜の海にいるなんて想像してなかったから、薄めのアウターしか羽織ってこなかったのだ。

『…わかって、いたのになぁ』

本当に2人が良い雰囲気だったことはわかっていた。そして、いつか付き合うんだろうなっても思ってた。でもいざ、それが確定、現実になると、自分の心は予想以上にショックを受けていた。

時折つま先に波が掠っているのぼんやり見つめながら、今までのことを思い返していた。

本当にあの現場楽しかったなぁ。素敵な人たちと出会えて、たくさんのことを学んで。

向井さんを好きになって。

このまま時間が止まってくれたらなって思う時もあった。

そしたらずっとこのまま見ていられるのに。

誰のものでもない向井さんのままなのに。

でもそんなことは無理だったから。

『…思いが遂げられなかった人魚姫は泡となって消えた』

ふいに昔とても大好きで繰り返し読んでいた童話を思い出した。

そうなれたら、どんなに良いだろうか。

この想いをいつまで抱えていかなければいけないんだろうか。

「風邪、引いちゃうよ」

優しくて、どこか少し間伸びさせた頭から降ってきた。