3 ページ15
あ、うちの一階どうかな？
自分の住んでるマンションの一階がずっと空き部屋で家賃を下げたって聞いた話を思い出して、連れて行ってみた。
私鉄の沿線で、踏切の近くで電車の音はうるさいけど、その分家賃は安めで、駅から近いしすぐそばに商店街もある。
「一階でもいい。ここにする」
大光ちゃんは見に来てあっさりと決めたみたいだった。
「いいの？若者はもっとお洒落な街に住みたいんじゃないの？」
「若者って。笑。Aちゃんだって充分若者じゃん」
『Aちゃん』
何年振りかで呼ばれたその響きにどうしてか胸がキュッとなる。
大光ちゃんが小さい頃、Aちゃん、Aちゃん、って言いながらわたしの後をついてきたのを思い出した。
一人っ子のわたしはなんだか嬉しくて。
可愛いなぁっていつも思ってたなぁ‥。
大光ちゃんのこと、ホントの弟だったらいいのに、って思ってた。
不動産屋さんに行ってあれこれ手続きしているうちに、すっかり日は暮れてしまった。
「帰りは？何時の新幹線乗るの？」
「明日劇団の顔合わせあるから今日は帰んない」
「えっ？そうだったんだ。どこのホテル？」
「適当にするから。大丈夫」
「適当って？」
「ネカフェとか。スーパー銭湯みたいなとことか。探すから」
「そんなの危ないし、大事な顔合わせの前にゆっくり眠れないよ」
「大丈夫だって」
「あっ！うち泊まれば？」
「‥」
「？遠慮しなくていいよ？」
「‥男泊めたって、婚約者の人に怒られるんじゃねーの？
婚約したんでしょ？ねーちゃんに聞いた」
「婚約、って言えるのかなぁ？指輪貰っただけだよ」
「‥充分でしょ」
「大丈夫、大光ちゃん弟だから。彼にもそう説明するから」
「俺のことはそんな心配しなくていいよ。もう子供じゃないし」
そう言って、大光ちゃんは後ろ手を振りながらスタスタと駅の方へ歩いて行ってしまった。
行っちゃった‥。
なんだかちょっと淋しい気持ちでその後ろ姿を見送りながら、大光ちゃんの言った言葉を思い返した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 249人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りぷる(プロフ) - めがねさん» コメントありがとうございます♡素敵な感想をお寄せいただき嬉しいです！拙いお話ばかりですが、これからも読んでもらえたら嬉しいです♡ (2024年1月29日 5時) (
レス) id: fcab587f4a (このIDを非表示/違反報告)
めがね - 切ないお話に胸がいっぱいです。素敵な作品をありがとうございます。 (2024年1月29日 2時) (レス) @page12 id: 2d5e7fc344 (このIDを非表示/違反報告)
りぷる(プロフ) - ひとみさん» 矢花さんの大人っぽくも少年らしさがあるところが好きなので、学生時代設定が多くなってしまいます‥ひとみさんいつもありがとうございます♡ (2023年2月28日 6時) (レス) id: 37903b9c18 (このIDを非表示/違反報告)
ひとみ(プロフ) - 矢花君連続で嬉しいです^ - ^前作もすごく良くて、制服矢花君見たくてYouTubeの青春シリーズ見返しちゃいました^ - ^今作もきゅんきゅんですね♡続き楽しみにしてます♪ (2023年2月27日 21時) (レス) @page42 id: ae75e2ccfb (このIDを非表示/違反報告)
りぷる(プロフ) - 靴下さん» いつもコメントありがとうございます♡靴下さんから感想いただくとなんだか安心するような嬉しい気持ちになります！切ないの好きって言ってもらえるの嬉しいです。またお読みいただけると嬉しいです♪ (2022年12月26日 7時) (レス) id: 37903b9c18 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りぷる | 作成日時：2022年11月19日 18時
