木槿のふたり (ページ8)

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右手の救世主ページ8

想像よりも遥かに立派なビルにビビる私をよそに、
先輩はさっさと前を歩いていく。

「先輩…ジャニーズ事務所ってこんなに立派なんですね…」
「ほんと、すげぇよな～」

何回来ても感動するわ、なんて言いながらこれまたピカピカのエレベーターホールに向かう。

「おっ！正人！」
「お～、おつかれ！」

先輩がエレベーターホールで居合わせた人に呼ばれた、と思ったら。
そこには、メガネに帽子姿の松本さんがいた。

オフでもオーラが凄いわ……。

密かにテンションが上がっている自分に、
案外ミーハーで驚く。
これから気をつけなければ。これは仕事だ！

「このコこの間言ってたTOX帰りの…」
「ああ！」
「朝倉Aです、はじめまして」

差し出した自分の手を見てふと思う。
あれ…？握手って日本じゃあまりしないような…？
ここはお辞儀だったんじゃないかッ？！
しかも松本さんは今、両手が塞がっている…！！
あ～！！やらかしたッ！！！

「あっ、すみません」
「ううん、ちょっと待って…よいしょっと…」

松本さんは、両手いっぱいに抱えた分厚い資料をなんとか片手に持ち替えて、右手を差し出してくれた。

所在なさげに宙ぶらりんだった、私の右手を救ってくれた松本さん。お優しい。

「TOXって凄いよね、どんな仕事してたの？」
「あ、はい、あの、アーティストさんの要望を受けて使う機材を提案したりとか、逆に最新の技術をアーティストさん側に売り込んだりとかしてました」

先輩が追加で「Aはレディー・ガガのコンサートにも参加したんだよ」なんて言うもんだから、その後松本さんからはいくつも質問が飛んできた。

「そうなんだ、ちょっと参考にしたいからこれからも色々と宜しくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします！」

そして松本さんは、「ちょっと寄ってから行くわ」と別の階で降りていった。