木槿のふたり (ページ29)

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お説教ガールページ29

意を決して、控え室に入る。

そこには、やれ携帯ゲームをしている人、用意されたお菓子を食べながら喋っている人、それはそれは緊張感とは程遠い空気が流れていて。

「皆さんと話したいことがあるんだけど……」

「Hi、A〜！俺たちの出番はまだダヨ？」

「知ってる。でも、皆さんに観てほしいものがあるの」

私たちはぞろぞろと裏の導線を通り、ドームの"天井席"と言われる、正面ステージから1番遠い場所に向かった。

「What?! ナニ？！」

流石に、何も言わずにここまで連れてきたから、海外チームのメンバーも少しイライラしてきている。

それでも。

「あそこにいるメンバーの松本さんが指示を出して、最終調整をしているところ」

「昨日リハーサルしたよ」
「ニホンジンは働キスギナンダ」
HaHa〜、なんて笑いあうメンバー。

「今のはカメラのスイッチングのスピードについて。今度は照明の変わるタイミングをほんの少し早くするって」

私は、松本さんが目の前で"どんな指示を出しているのか"を淡々と訳す。

「これはボクたちのパートじゃないよ」
「昨日もう完全に出来上がったし、ボクらはミスなんてしないから大丈夫だよ」

グラフィック担当のサムが席から立ち上がると、それに合わせて数人の若手も控え室に帰ろうとする。

ああ……これは完全にナメられている。
チームリーダーは無言のまま、だ。

「ちょっと待って」

私が発した、ピリッとした声音に、若手達が動きを止める。

「彼の頭の中にある素晴らしいコンサートを、絶対に形にしたい、そう思ってここにいる全員が動いてる。そして、あなたたちにはその技術がある、と信頼してる。
確かにハードワークだけど、"ギリギリまで粘って、最高のものを作りたい"という彼らの想いは伝わるでしょう？
日本のよく知らないボーイズバンドだ、って手を抜いたり全力を尽くさないチームは………、そんなのは……プロフェッショナルの仕事じゃない！！」

これも、TOX時代に学んだことのひとつ。

……ちっこい日本人の女は、ナメられやすい。
怒るときは、思いっきり。