【実.況.者】君と見る世界【ky】

8話 ページ9

｢れ、レトルトさん、大丈夫ですか？｣


『Aちゃんが悪いんやろ』


キヨさんが繋いでくれた通話で、レトルトに声をかけると、涙を含んだ声で帰ってきた。


｢レトさん泣きすぎ｣


『キヨくんは逆になんで生で聴いてそんなに普通でいられるん？』


隣にいたキヨさんがそのレトルトさんの鼻声っぽい声が更に鼻声になっているのにツボっているらしい。


｢色んな感情が一気に来たせいで何も出来なかったんだよ。1人だったら泣いてたかもしんない｣


そう言って、隣に座ったキヨさんは黙ったまま私の手を大きな手で包み込むように握った。
そして、指と指を絡ませて、恋人繋ぎというやつに変えた。


『でも感動したなぁ。俺もなんかリクエストしたら弾いてくれる？』

｢え、逆にリクエストいただけるんですか？｣


まだ会って2ヶ月ほどしか経っていないが、彼らとはとても仲良くさせていただいている。
何かお礼が出来ればとずっと考えていたが、リクエストがあるならいい機会である。


｢ちょっと、うっしー！｣


ぎゅう、と絡めた手に力が入る。少し、目がつり上がったキヨさんが止めに入った。


『なんだよ。彼氏の許可必要？』


｢キヨさん、私なら大丈夫ですよ。聴音の勉強にもなるし｣


キヨさんは私の方を見る。
牛沢さん達に聞こえないように、私の耳に口を寄せた。


｢……ごめん、ちょっとだけ嫉妬した｣



｢ふふ、｣


思わず笑ってしまうと、その笑い声が聞こえたのか、牛沢さんとレトルトさんが勢いよく言ってきた。


『えっ、なになに、俺らの前でイチャイチャしてんの？』


『キヨくん最悪！！お前最近調子乗りすぎなんだよ！！』


｢ほんと！お前らいい加減にしろよ！！！｣


｢キヨさん落ち着いて！ね？牛沢さん、弾いて欲しい曲は動画とかで教えてくれればそれ弾きますので、ね！｣


パソコンに向かって吠えたキヨさん。手を握り返すと、彼は少し機嫌を良くしたのかそれ以上言わなかった。


『おー！やったぁ！じゃああとで送るわ！』


｢はい。キヨさんも、なんかあれば送ってくださいね｣


｢………ずるいわ、お前｣


『じゃあ俺感想ぶちまけまーす』


レトルトさんがそれを皮切りに一つ一つ丁寧に感想を言い始めた。


こうやって一つ一つよかったところを言ってくれる人がいると、素直に嬉しいのだ。


マシンガントークに私を含め何も口を挟めない。
キヨさんはそれで暇になったのか、繋いだ手を離さないで、スマホを弄り始めた。

9話→←7話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す