25話 ページ25
テーブルの上には、焼き鳥と、チーズの料理とか、定番料理が並んでいた。
しかし、お互い手をつける様子はない。
料理を運んできてくれた男性の店員さんに泣いてる私を見られて動揺されたけど、キヨさんが頭を撫でていたのもあって、色々察したらしい。
ほっとしてそのまま「失礼します」と出ていった。
空気の読める人でよかった。
「……わたし、ですね」
ずび、と居酒屋に置いてあったティッシュを3枚ほど使ったあと、私は口を開いた。
「……うん」
キヨさんは落ち着いた私の頭から手を離した。
「色が、認識できないんです」
それでも、彼の目はこちらを向けていてくれた。
✱
「……なるほど、な」
全く色が認識できないこと。
それで、からかわれたり、友達を失ったこと。
生まれた時からなんとかしてきたけど、ついに中学校に上がる前に辛くなってしまって、特例中の特例で特別支援学校に行ったこと。
そこから、音楽の努力を認められて、音大に通っていること。
原因がわからず、途方に暮れて20年が経っていること。
「……だから、あの夜、1歩も動けなかったのか」
「はい、色の区別ができないせいで、夜は本当に目が悪くなるんです」
だからあの夜。
キヨさんが現れなかったら、スマホすら拾えずに、そのままいたら。
考えるだけでも、ぞっとする。
「……ごめんなさい」
いきなり、しかも会ってすぐだ。
彼の職業もなかなか言い難い事だが、私のこれは、私の全てだった。
何を言われるのか、すごく怖い。
「……俺さ」
キヨさんが、口を開いた。
「あの夜、結構イライラしてたっていうかさ」
「調子よくなかったんだよね」
最初は目が合っていたけど、今は目を逸らしたまま、彼は続ける。
私はティッシュを1枚とって鼻をかんだ。
「だからさ、気分転換にコンビニ寄って、その後帰ってメンバーの一人と実況取るか〜って思って、コンビニ行って、お菓子とお茶買って、帰ってたわけ」
「そしたら、たまたまこっちの住宅街行った方が近いしな〜って通ったら、お前が自転車に突き飛ばされてるの見たの」
「……」
あの日を思い出すように、キヨさんはゆっくりと話す。
「普通ね、暗闇でも、落としたスマホを探すじゃん、ああいう時って」
「でもお前、固まって動かねえから、」
「……あのときは、パニックみたいになってて」
「うん、だから声掛けたんだけど」
「俺、今それやってよかったって、心から思ったわ」
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りんご(プロフ) - ちぃさん» コメントありがとうございます。かっこいいと言っていただけて嬉しいです。ここ最近リアルなどが忙しいので、更新に波があると思いますが、長い目で見ていただけると幸いです! (2019年11月21日 18時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 7話まで一気に読ませていただきました!キヨくんかっこいいです。続きが楽しみです。無理しない程度に頑張ってくださいね! (2019年11月21日 9時) (レス) id: bc58f84b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんご | 作成日時:2019年11月10日 20時