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「呪物の回収だって」


「そうですね、そもそもこんな山奥に…いや、ありそうだな」


補助監督に車を走らせ、遠くの山に霧がかかりそうな程深い田舎に訪れる。

がたがたと砂利で揺れる車内で、幽谷が吐き気を我慢する呼吸だけが聞こえた。

この緑を見ることは幽谷にはできなかった。



訪れた古い民家はじっとりとカビ臭く、耐えられない雰囲気で、伏黒は幽谷の唇にペットボトルを近付け、水を飲ませた。


それが少し気に入ったのか、3分に1度、水を口に含んで、伏黒に微笑みかける。

幽谷には初めての優しさであった。


「先輩、2階、ありますね」


「うん、ここの方が出口に近いから、来るまで待っていよう」


「呪物が歩いて来るっていうんですか」


その発言に幽谷は少し首を傾げた後、目元を押さえ、数秒の沈黙の後に階段の方に指を向けた。


「うん、来ている」


「…どうしますか、この状況」


階段の壁にぴったりとくっついた日本人形はゆっくりと微笑んで、ホホホ、と笑う。

どう考えてもイ行を発音する口からは、到底出ないような声だった。


「伏黒は怖い?あれが」


「まぁ、少し」


「しょうがないね、そういう術式を使っているから」


その後、彼女は何度かまばたきをして目の前の人形に指を向ける。


だんだんと彼女の呪力が人形の異様な術式を覆い、消した。


硬い顔の表面に罅が入り、笑い声が止む。

それで伏黒はようやく自分の恐怖が消えたことに気が付いた。


「怖くないよ、ただのぐちゃぐちゃの絵みたいだから」


彼女はしゃがみ込み、伏黒を手招きで呼んだ。

人形の破片をひとつひとつ拾って、布につつんでしまう。

欠片の裏側に書かれた呪詛からはもう、呪力も何も感じない。


ただ、無心でふたり、欠片を拾った。

少し寂しそうに拾い集める幽谷の顔を見て、伏黒は天涯孤独という言葉が脳裏によぎった。


そうして彼女の邪魔にならないよう、髪を耳にかけてやる。


何もないところをぺたぺたと触る彼女の指が、まるでパズルのピースを探す幼児のようで、拙く、あまりに幼いので、伏黒は目をそらした。

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作成日時:2021年1月17日 0時

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