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Story1.今宵の彼女 ページ2

ゼトside〜



何の悪意もない人間……
彼女が本当に迷い込んだ人間だとして、
世界の扉を開いたのは誰なんだ…?



「そういえば、貴方の名前をまだ聞けていませんでしたね」

「えっ、あの……」



「まだ怖いですか?僕のことが」

「す、すみません……」


「無理もないですよ。何たってヴァンパイアですからね」

「あ、はい…。
あの、A…という者です…」





今にも泣き出しそうに呟く彼女は
まるで小動物のようで、
男の癖に無駄な母性本能がくすぐられた。





「Aさん、僕は確かに吸血鬼ですが、何の罪もない人間を襲ったりはしません。それは…保証します」

「はい…。
その…私は、死んだんですか…?」

「…まあ、僕が推測するに……近頃、貴方の親しい人が死にませんでしたか?」



質問を投げかけると、
Aさんは目を見開いて顔を青ざめる。



「な、な…!
なんでそんな…こと……」



ドンピシャの図星だったようで。



「すみません。ここはあくまで亡者の集まるところですから…

誰かが貴方を呼んだ可能性も無いとは言えません」

「そんな…」




下を向いて話さなくなってしまったAさんをどうするか迷っているところに、とある僕の“部下”がやって来た。




「…ルーク」

「何やってんだ?こんなとこで……




…え!?そいつ、人間…じゃ…!…」

「大丈夫です。捉えたわけじゃありません」

「じゃあ何だって…」

「分からないんですよ。ただし巻き込んだのはこちらの世界の誰かです。彼女が現世に戻るまで、僕達で護衛致しましょう」

「はぁ?護衛?」



心底 意味分かんねぇ みたいな顔をしながら
ルークはAさんを見下ろした。



「おい女。もたもたしてっと他の野郎に食われるぞ」

「こらルーク…!」

「い…いいんです、もう、別に…。
こんな訳のわからない所に飛ばされて、
お化けに会うとかそんなくらいならもういっそ死んで…」





言いかけた彼女の胸ぐらを
容赦なくルークが掴み取る。





「…舐め腐ったこと言ってんじゃねぇぞ」

「……!!」

「やめなさいルーク」




手を振りほどいてあげると、
Aさんはまた怯えた様子で涙を浮かべた。





「部下が失礼を…
彼も過去に色々ありまして…逆上することがあるんです。でも優しい子なので…」






人間と妖怪の関係に不安が募る中、
この会話が盗み聞きされていることも知らずして



僕達に何が救えると思っていたんだろう。

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作者名:りのの | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2015年5月29日 17時

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