三途の川リターンズ【刀剣乱舞】

ラウンド24 ページ25

驚く鶴丸の顔が霞んで見えた。
鵺が心配そうに背中の方に回って背中を撫でようとしてくれた。

その時やっと、自分が握り飯を口から吐き出していることに気付いた。

米はまるで水を含ませた粘土のようだった。中に入っていた鮭は生臭くて、腐った魚を食べているようだった。
握り飯に細工をされていた訳ではない。
ただひたすら、身体が食べることを拒否していたのである。

よく考えてみれば、二日間何も食べていなかったのに腹は全く減らなかった。多分、心も体も壊れてしまっていたのだろう。
しかし自分が持っているのは人間の体。食べなければ死ぬ。
だから鶴丸に、一日一度だけ、味の無い食事と栄養剤を運んで来て貰えるよう頼んだ。

燭台切は試行を繰り返して、少しでも食べ易い食事を作ってくれたらしい。だが、野菜は青臭く、小麦粉を練って焼いたものも飲み込めず、ほぼ受け付けなかった。自分が食べられたのはせいぜい粥の一口や二口で、そのほとんどを残してしまっていたのは今でも申し訳なく思っている。


そして一週間程経ち、鵺や鶴丸の助け無しでも歩けるようになった頃。
廊下で鉢合わせた審神者に開口一番、舌打ちと共にこのようなことを言われた。


『なんだお前、まだ生きてたのか』


涙など出なかった。
ただ、心の奥で渦巻くどす黒い感情を押し殺すのに精一杯だった。

それからまた大広間で食事をするようになったのだが、依然まともに食事は出来なかった。
審神者が辞めると聞いた日も、本丸を出て行った日も、出て行ってから数日経っても、味覚が元に戻ることはなかった。

もう二度と、まともな食事は出来ない。
もう二度と、普通の人間のような生活は出来ない。



そう思っていた。

でも、違った。



今日やって来た新しい審神者。
彼女の目の前に並ぶ料理が、どうしようもなく美味そうに見えたのだ。
もしかしたら、と希望を抱きながら、料理を口に運んだ。

美味かった。

一口、二口、三口。胃は完全に縮んでおり、それきりで腹は一杯になってしまった。しかし、今まで食べられなかったのが嘘であったかのように、自らの体はするすると食べ物を受け付けた。

この審神者は、一体どんな力を秘めているのだろう。
あの柔らかい声、優しそうな物腰、鵺を撫でた時の幸せそうな表情…きっとそれらが、自分の安心感をつくり上げたのだ。

自分は、直感的に思った。
この人なら本丸を再建出来ると。
この人を殺したくないと。
この人の未来を奪うべきではないと。

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