お互いの ページ9
「わー、賑わってる賑わってる。いっちゃんでも手こずってるの？」
「別に呼んだはずないんだけど…部外者は即刻立ち去って貰えるかな？」
「冷たいなぁ…いっちゃんのお仕事モード冷たい！」
頬を膨らませて伊月の顔を覗けば、片手でブッと頬を凹ませられる。
唾飛ぶのに。
「どっちみちこの件に関してはそっちに回すつもりだよ。君のケリをつけたい相手だろうし」
薄く目を開いた彼は、ニヤリと笑った。
その言葉の意味で、全てを察する。
「仕方ないな…。なら一つ、部下に連絡して」
「お兄さんもお仕事モードの入ってるみたいだけど？」
「奴は必ず俺以外の前には現れない。使うのは向こうも同じく部下。そんで全部を捨て駒と見なしてる。もう分かるね」
近くの壁に背を預け、伊月の行動を見守る。
…Aちゃんのとこ戻ったら、手伝わなきゃだろうし。
＊＊＊＊＊
「そこにガーゼを当てて。固定しろ」
『はいっ。』
どれくらい経ったろうか。
途中で数人怪我人がやってきたが、真夏さんが向かってからは全く来ていない。
やっぱりあの人は凄い人だと、本人の前では絶対に言えないけれど。
「これで最後か…。おい、アイツに連絡しろ」
『あ、はい』
真夏さんに連絡をかける。
そして、すぐに電話に出る真夏さん。
《はいはい、終わった？》
『はい、応急処置なのでどちらにせよ病院に搬送はしなければいけませんが…全員何とか出来てます』
《ほー。さすが救護部。そんじゃあそっち向かうね。あとは警察にお任せしちゃおう》
そう告げられてから通話終了と表示される。
向かった先はそう遠く無いし、たぶんすぐ戻ってくるだろう。
『あの……部長』
「あぁ」
『私はどうしても、浦田先生を悪いようには思えません』
突然のことに言葉をつまらせた様子だった。
だが、夕方のときのように怒ったりはしなくて。
「……分かっている。」
『……』
「花菱学園は、環境が良い。医療の専門学校や大学に並べるほどには、な。だから浦田夏樹はきっとそれを狙ってたんだ」
何も言わずに、彼女の言葉を聞いた。
「僕はB種だ。親を亡くした。家を無くした。そこで夏樹が僕を拾った。だから紅蜂に入れたんだ」
『どうして…医者に？』
「夏樹が……病気を患っているからだ」
『……っ！』
全部、お互い分かっていた。
それでもお互い知らないふりをして、お互いを救おうとしていた。
「でも、僕……、いや、私は。………絶対にあいつを救う」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リナ@オリジナル小説垢 | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2018年7月15日 12時
