【SPY×FAMILY】ちちのこころ、うるさい

1話 ページ3

「……またか、」




上体を起こし、まだ完全に覚めていない頭を手で抑えた


最近、やたら同じ夢を繰り返し見る

酷く弱く、ただ泣くことしか出来なかった自分に絶望するまでの、些細で楽しかったあの時の夢


また目を閉じて、続きを見たくなってしまうからこの夢は嫌なんだ

外ではしゃいでいる子供たちを横目に、夢の中で最後に微笑んだ少女の姿を思い浮かべ呟いた



「生きて…いるんだろうか」



1人の人間の生死なんて調べればすぐに分かる
実際出身地、名前、年齢、容姿。必要な情報は十二分に揃っているわけだし

それでも調べなかったのは、純粋に怖かったからだ

もし既に死んでいたらどうする？俺はいよいよ立ち直れる自信が無い

彼女のあの笑顔をもう一度見る為に、過酷な任務でも今まで耐えることが出来たんだ
信じるくらいしてもいいだろう


もし生きていたら、昔のように、ただ何も知らずに笑っていてほしい
欲を言えば、その笑顔を向ける先にいるのは俺がいい




「…なんてな」



人並みの幸せなんてものはスパイとなった日に身分証と共に処分した筈なのに、この夢の後になるとどうしても、底に隠していた欲が顔を出してしまう

自分の幼稚な願望に自嘲し、俺は重たい身体を持ち上げた



「えーっと…今日の任務は…外務大臣のヅラ写真の回収だったな」




あと少しでその願いが叶うなんて夢にも思わず、俺は柄のついたスーツに腕を通した

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