ep.7 ページ8
.
セーラさんは、ドレスの上に白い毛皮のコートを羽織り、ピンヒールの靴音をさせた。
「月が出てる」と小さな月を見上げたその横顔が、なんだか甘く感じる。
「寒くないですか」
「平気。近いし、家」
「よかった」
「あの、EIGHTってわかる？」
「はい、あの、有名ですよね」
僕は何度もその顔を盗み見て、そして気づかへんくてもええことに気が付いてしまった。
「あれ、」
歌っていた時にはついていなかった指輪。
「あれ、聞いてない？」
「何がですか」
「私が、結婚してること」
「……え？ その」
「仲間の一人と」
「あ、そうなんですね…。
えっと、どうして……、いやどうしてって失礼ですよね」
「いや大丈夫。別に恋愛とかそういうんじゃないから」
「やったら、その、どうして」
「みんな孤児でね。家族が居いひんねん。
だけど私は、みんなのお陰で学校に行かせてもらって、仲間の内のマックって人に引き取ってもらった。まだ子供だったんだけど、その後結婚しちゃったの」
「その、マックさんとですか」
「違う違う。アーセナルって言うて……。
何より、昔からふらっと何処かに行って、帰って来なそうな人。
浮世離れしてるっていうか、いろんな意味で素直っていうか。
いつも自分を探してる人。
だから……つなぎとめておきたくて。
みんなが居るこの場所に居てほしくて。
マックの養子に入った時ね、これで私もようやく誰かの家族になれたって思うたの。
やっぱり捨てられた人間やから。
口では色々言ってても、やっぱり紙の許しが欲しかったの。
それで、その制度としてもう一つ、赤の他人が家族になる方法って、婚姻でしょ。
それに仲間内に国に認められた親子と夫婦が居れば、私たちっていうコミュニティが強固になると思うて。
みんなを動かす真ん中の人と、一番子供と、それと今にも居なくなっちゃいそうな人。
この三人の結びつきがあれば、他の人も居なくならへんって、ね」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
