ep.32 ページ33
Johnny Side
「あ、ジョニー」
「どうしたん」
ある昼下がり、マックは嫌に疲れ切った顔で僕を見た。
「俺、言うてしまったわ」
「……何が、」
「セーラのこと。アーセナルに」
「男と逃げたこと?」
「それも」
「それもって、何」
「住所」
「え」
「俺、父親やからな」
「………」
「何がセーラにとって最適解なんか、俺には分かれへんかったから、黙ってた。
………せやけど、あの阿呆は」
「……アーセナルは、行くん」
「行くやろな。
……あいつ好きやったんやなあ、ほんまに…」
マックはそう言って、目を伏せて笑った。
奥の部屋から物音がして、支度を終えたアーセナルが出てきた。
無言で出ていくアーセナルに、一言でも言いたなって僕も外に出る。
「アーセナル!」
「………なんや」
「会いに行くん?」
「…………」
「今度こそ、愛してるって、言ってあげて。
連れ戻すつもりでも、そうやなくても、向こうがどう言っても、言ってあげて。
それだけで、少なくとも「あの頃のセーラ」が救われると思うから」
「…………解った」
そして俺だけが残った。行ってしまった。
俺とAは、皆ともそうやけど兄弟やから、分かる。
あの子は、ずっと愛されたかっただけやったって。
見返りのない、ただ純粋な感情。
特別にされ、守られたかったそれだけ。
見返りなんか必要なはずない。
やって、もう夫婦ではあったんやから。
家族であり、兄弟である。
その上に深い繋がりを無理やり作ってたんやから、これ以上「形式」を増やしても仕方ない。
ただ「心」みたいな見えへんものが欲しかったんやな。
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作者名:ゆうみ | 作成日時:2020年8月22日 11時