ep.22 ページ23
Sara side
ダイキが帰った後、私は新幹線の乗車券を見て泣いた。
この手中にあるものが、幸せへの切符なのが解ったから。
同時にこれが、アーセナルとの別離への切符なのも。
そんなエイトの裏口で泣く私を、丁度煙草を吸いに来たアーセナルに見られた。
アーセナルは私から少し離れた場所で、私が泣き止むまで煙草を吸っていた。
「……アーセナル、寝た?」
「………」
「…………起きてるやろ」
「……どうしたん」
アーセナルの部屋に入ると、真夜中の匂いと煙草の煙が目に滲みるほど感じられて、私の胸をざわめかせた。
明りを付けなくても、その両の眼がこちらを見据えていることが分かる。
私は勝手にそのベッドに潜り込んだ。
アーセナルは私が入ってきた時に決まってするように、今日も寝返りを打ち、私に背を向けた。
「寝られへん」
「今日のことか」
「…うん」
「まあ、聞かへんけど」
「聞いてくれてもええんやで」
「そんなん、何でも自由やろ、お前のことやし」
「……別に興味ないかあ」
「そんなこともないけど」
「あたしばっかり、ほんま馬鹿みたい」
「……何が」
「色々。アーセナルには、一生分かれへんよ」
「…なんか、嫌に突っかかるやん」
「やって……大切にするやり方があたしの思うてるのとちゃうねんもん」
私を抱いて、とは言われへんかった。
今までもずっと、私はこの人にとって子供でしかない。
綺麗な女の人には目がなくて、手も早いのに、私だけはいつもこうして背を向ける。
こんなに近くに居るのに。
私、誰とも寝たことない。
アーセナルだけが私を自由にしていい人やから。
そうしてほしい。
でも、アーセナルはそうしたいなんて思うてない。
私をただの仲間の一人として見て、私のこの不毛な思いの上で日々を飄々と過ごし、私の気持ちを気づかないふりで消費していく。
特別なひと。
私に名前をくれたひと。
仕事を教え、判を捺し、私と結婚したひと。
私を滅茶苦茶にしてくれ、さもなくば殺してくれ。
その2丁の拳銃で、綺麗に心臓を撃ち抜いてくれ。
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作者名:ゆうみ | 作成日時:2020年8月22日 11時