ep.21 ページ22
Daiki side
「僕と、一緒に来ませんか」
「……え？」
セーラさんはその綺麗に描かれた眉を顰めた。
僕はまた性懲りもなく、セーラさんに会いに来ていた。
「✕✕でホテル経営している叔父が、例の話を聞いて弾きに来ないかって言うてくれてて。
こんなことになってもうたし、僕、行こうと思うてるんです」
「私、そんな行かれへん、」
バーは支配人と経営者が居なくなって潰れてしまった。
僕とルカさんは、職を失い、ルカさんはいい機会だと言ってピアノ弾きを廃業してしまった。
僕は今日、並々ならぬ覚悟を持って、セーラさんの前に立っている。
一緒に行こうと、そんな無理難題を言ってでも、僕には手に入れたいものがあった。
「セーラさん。
………僕は、セーラさんが好きです。
辛い時にはそばに居って、心の一番近くで笑いたい。
それに、セーラさんのこと、ほんまの名前で呼びたいんです」
「………無理やって、私、何も捨てられへんから」
「…………✕✕は、田舎やけど観光客も来はるし、ホテルもお客さんの年齢層が高くて落ち着いたええ所です。
……海も近いし」
「…………」
「これ、新幹線の」
新幹線のチケットを財布から一枚だけ取り出し、僕はセーラさんにむりやり握らせた。
「駄目やって。ほんま。受け取られへん。」
「嫌やったら、捨ててください。
やけど………、僕はセーラさんの為に生きられます。
あの人だけがセーラさんの好きな人で、セーラさんを幸せにするのは分かってます。
でも、僕の方が幸せに出来ると思う。
あなたに愛されなくてもええから、僕があなたを守ったり、愛することを許してほしいなって。
……じゃあ、僕は、これで。
二週間後、✕✕駅の✕番ホームで、待ってますから」
セーラさんはきっと来ないやろうな。
でも、挑戦だけはしたかった。
二週間だけでも、二人で逃避行して、知らない土地で平凡に暮らす夢を見たいから。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
