ep.11 ページ12
Sara Side
「……どうも…！」
あれから、ダイキはやたらと店に来るようになった。
店といっても歌う方。
ダイキが知っているのは「こちら」の私だけだ。
それに対しては少し、安心というか。
エイトの自分も、ヤマモトの自分も本当の私ではない。
本当の自分やないから、いつも気楽に人と接せる。
その中でもダイキはやたらに人懐っこく、勝手に出待ちしたり、楽屋に来たりした。
もちろん客としてくる時が多かったけど。
どうしてこの人はこんなに踏み込んでくんねやろ。
なんで興味を持ってくれはるんやろ。
よく分からない。
私なんか、ありがちな、ただの平凡な女やのに。
ともかく、日々は進む。
私とダイキと、予定が合えばルカさんと食事したり、飲んだりすることも増えた。
ルカさんと会う理由にもなってくれるなんて、良い人やな。
私にとっての、っていうことで、何もダイキには関係あらへんけど。
マックもジョニーも、私の交友関係が広がったことに喜んでいる。
私の世界はいつも「みんな」との世界だけやった。
歌手の私は、所詮出張の私であって、誰と仲良くしているわけでもなかったから。
マックは単純に、そしてジョニーは私の変な一途さを散らすかもという期待において、私の世界の広がりを好ましく思うているのやろう。
きっとアーセナルも、そうやろうな。
私が、ダイキかその知り合いかと付き合うたり、関係してくれないかと考えてんねやろう。
ごめん。
私はきっと心変わりせえへんよ。
重くて、醜いこの積年の思いを、私は捨てられへん。
そのくらい、アーセナルを好きなまま暮らしてきた。
これからもきっとそう。
アーセナルやジョニーの目論み通り、私は短期間でどんどん知り合いを増やしていった。
皆が私を「歌うたいのセーラ」として見た。
誰も「エイトのセーラ」として見なかった。
私は、アーセナルの女で、誰も手出しできへん。
それが通じない世界が、少し心地よくもあった。
とはいえ、私の心はあそこにあるのだから、結局誰のものにもならない。なられへん。
新しく知り合ったみんなは、優しい。
7人の家族的な優しさとも、エイトの客たちの下心な優しさとも違った。
それは私を赦してくれている気がした。
様々な場所で違う自分を演じるのに、嫌気が差している私の心を、慰めているような気がする。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
