15_段階・二 ページ15
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「来て頂いてすまない。七七嬢」
「うぅん、白先生が行ってきてって言った。だから来た」
「助かる。俺は暫く出先だが…早ければ夕方には一度戻ろう」
「わかった」
七七嬢が小さく頷くのを見届け、チェルーを一瞥したのち少し重い腰を椅子から上げて家の外へ出る。
チェルーを差し置いてでも行かねばならぬ用事が出来てしまったことに少しやるせなさは残るが、これは俺の意志であり、必ず成し得なければいけないことだと己を説き伏せるしかなかった。
午前11時半。
この次行く場所は、ここからそう離れてはいない瑠璃亭。いつもなら20分前には家を出て、10分前にはその約束の場所に着くよう時間を調整していたのだが、今日は七七嬢を呼びに行かねばならなかったりと、何かと忙しかったこともありあまり時間がない。
まだ公子殿は来ていなければいいのだが。
「ようこそいらっしゃいました。鍾離様ですね」
「あぁ、公子殿はまだ来ていないのか?」
「はい、まだいらっしゃっておりません。お先に席へご案内致します」
「感謝する」
どうやら公子殿はまだ来ていない様子。
個室へ入ると、そこには既に茶や前菜の類が並んでいた。
ここはひとまず茶でも淹れながら公子殿が来るまで待つとしよう。
チェルーのことは気になるが、アレでも俺よりも余程永く生きた格式の高い人だ。
今は気持ちを切り替えて、そのうちに来たる公子殿と"旅人"の期待に応えなければならない。
奥で鎮座する椅子に座り、茶を飲み、外の喧騒も遮断された静けさに満ちたこの個室で一時の安らぎを得てもなお、この胸を悩ませるモヤが収まる気配は無い。その上余計な考えまでチラつくようになってしまう。
こんなことならいっそ遅刻をして、すぐにでも話始められれば…とすら考える。
あの人に会ってしまうと、一人になるのすら怖い。
いや違うな"怖くさせられた"んだ。
——————
"トラウマ"
自身の許容範囲を大幅に超えるような精神的苦痛やストレスが蓄積された時、その物事に対して著しい恐怖や不安を抱く現象。
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もぶ - たぬき印さん» うわあああ、返信ありがとうございます!!めちゃくちゃ面白いです!!!少しずつ明らかになってくの楽しみです...!!! (2022年9月10日 22時) (レス) id: 3fdbb0f866 (このIDを非表示/違反報告)
たぬき印(プロフ) - もぶさん» ここまで見てくださってありがとうございます!これからも2人の関係は少しずつ深掘りしていく予定なので、引き続き楽しんでいただけると幸いです! (2022年9月9日 1時) (レス) id: e020d55359 (このIDを非表示/違反報告)
もぶ - うーーん、鐘離先生と夢主君の関係が好きぃ...お仕事頑張って下さい!!更新首を長くして待ってます!! (2022年9月8日 1時) (レス) id: 3fdbb0f866 (このIDを非表示/違反報告)
たぬき印(プロフ) - はなさん» 2話投稿時には既に修正しておりました。恐らく更新による時差かと思います。ご迷惑おかけしました。 (2022年2月13日 16時) (レス) id: e020d55359 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - オリジナルフラグたってますよ……! (2022年2月13日 4時) (レス) id: 1f4f011eda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たぬき印 | 作成日時:2022年2月12日 2時