〝平和〟が一番似合わない町【名探偵コナン】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:10,708 hit

FILE.２　　小さくなった名探偵ページ5

*

「うわぁ、結構降ってる……」

　星も月も全く見えない空模様に、傘持って来ておいて良かった、と数時間前の自分を褒め称える。駅の構内から出て傘を差し、土砂降りの中に踏み込んだ。

　先日の母さんの発言はどうやら本当だったらしく、荷造りやら何やらを終えた彼女は飛行機に乗って海外へと飛んだ。ちなみに、父さんも飛んだ。信じらんない。実の娘をひとりこの町に置いていく気か？そう問えば、兄さんがいるから大丈夫だろうと言われた。莫迦、兄さんは今近畿だよ。
　とまぁ、見送りついでにそんな緩い別れを告ぐ為、成田空港まで行き米花町に帰ってきて今に至る。そして今日から、栄えある一人暮らしという名の幕が上がったのだ。

　帰宅して開口一番、私は再び女子の欠片もないような声色「は？」と呟いた。呟きは煩い雨音にかき消されたが、しばらく頭の中で反響していた気がする。

「なんで家の鍵ないの……」

　ポケットをあさってみても、カバンをひっくりかえしても、自宅の鍵が見当たらないのだ。嫌な汗が背中をつたう。差している傘から落ちた雫が、地面の水溜りに波紋を作った。そんな様子をボーッと見ていたが、あわてて携帯を取り出して母さんにかける。

『……貴方のお掛けになった電話は現在電波の届かない場所におられるか、電源が入っておりません。』
「そりゃ、飛行機乗ってんだから携帯の電源くらい切ってるか。」

　しばらくどうしたものかと考えていたが、今の状況じゃどうにもならないという結論が出たので、ひとまず毛利の家に行くことにした。お願いしたら泊めてくれるかもしれないし、探偵事務所をやってるから鍵を開けられる道具があるかもしれない。そんな微かな希望を抱いて、私は毛利宅に向かった。

　道中、雨の中傘も差さずに走っている男の子を見かけた。その小さな体に似合っていない大振りな服や、頭に巻かれている包帯、そして、工藤の小さい頃そっくりな顔立ちが印象的だったのでよく覚えている。一瞬目が合い驚いたような表情をされたが、ちょうど大型トラックが来てしまい、次見たときにはいなくなっていた。なんだったのだろう。