初めて出会った日。 ページ36
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俺がマツコさんと出会ったのは中学2年の夏だった。
『あの、福尾亮呼んでくれませんか?』
その頃は学期末テストの期間中だったか。
昼休み終了15分前、随分幼くて小柄な女子が右手に大きめの巾着袋をぶら下げる。移動教室なのか、左腕には音楽の教科書と副教材のノートを抱く。
「いいけど……」
人見知りな俺だけど、女子にはある程度興味がある。彼女の顔を見るや否や、心臓が大きく跳ねたような気がした。思わず素っ気ない態度を取ってしまって一瞬で後悔する。
俺のバカ、もっと優しく接しろ。
「亮、女の子が呼んでる」
「女の子?」
「おう。廊下で待っとる」
増田と楽しげに話す亮に声をかける。亮はまた告白されんのか、とからかわれてちげえよ、と否定し、爽やかに廊下へ出る。
「あれ、Aじゃん!」
なんとなくだ。まだ男の勘は磨かれた訳でもないけど、Aさんとやらを目前にした亮が雰囲気を和らげた気がする。
『やっほ!』
女友達と話す時のような軽さがない。身長差はそれなりにあるけれど朗らかな雰囲気に包まれる。2人だけの世界が一瞬にして広がった。
「どうしたの?」
『ママから体育館シューズの忘れ物預かってたの。6限目体育らしいやん』
はい、と黒のシューズケースを渡す。
「あぶね! ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ亮はAとやらの頭をポンポンした。子供扱いするな、と抵抗するものの彼女も嬉しそうにする。
『じゃあ私行くね!』
「うん! あ、A待って」
『ん? どうしたの?』
「今日一緒に帰らん?」
『いいよ! じゃあついでに文具屋さんに行かせて?』
「了解!」
2人は放課後ね、と親しげに別れた。
出会って数分で呆気なく敗北した気分。なんだこいつら。仲良すぎるだろ。ふつふつと燃え上がる醜い気持ちを堪え、俺はご機嫌な亮に声をかけた。
「なあ亮、あの子1年生……?」
「3年生だよ。童顔だけど俺らの1個上」
「マジか……」
パッと見はまだ小学生が抜けきらない中1だった。亮との身長差はAさんが見上げるほどだったし、笑顔があどけなかった。
「バカ可愛いやん……」
でもお姉さん気質がありそうでギャップにキュンときた。
すっかり心を奪われた俺は本音が溢れだしたことも、亮が増田に怖い顔をしている、と窘められていたのも知らない。
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あおやなぎ(プロフ) - AYN98036518さん» 初めまして、ありがとうございます! これからもこの作品をよろしくお願いします(^^) (2021年1月5日 15時) (レス) id: 098b1a6f9b (このIDを非表示/違反報告)
AYN98036518(プロフ) - 面白いです!面白すぎます!頑張って下さい!続き楽しみに待ってます!!!!!!! (2021年1月4日 12時) (レス) id: 12406a430a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年5月14日 22時