《29》 ページ30
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━━━ 宮近side ━━━
仕事終わりの帰り道。
せっかくの二人の時間なのに。
特に何も話す事が出来なくて。
自覚をしたら変に緊張してしまって。
少しでも良い印象を持ってもらいたいのに。
何も話せなかったら全く意味がない。
いつもなら長く感じる帰り道は思ったより早くて。
エレベーターに乗るとすぐにAさんが降りる階。
じゃあ、また明日。おやすみ、
十数秒ではその言葉を伝えるのが精一杯で。
大事な時にヘタレな自分が出てくる。
本当意気地無しで嫌になる。
海人みたいな人の方がAさんは良いのかな…なんて。
ここに居ない奴にまで嫉妬してしまいそうになり、大きく首を振ったとこでエレベーターのドアが開いた。
.
シャワーを浴びて部屋へ戻って気付いた。
明日どうしようか。
Aさんの時間が欲しいとは言ったものの、
何かプランがあった訳でもなくて。
一緒に、二人の時間が出来れば何でも良かった。
明日は金曜日だから。
Aさんはお酒が好きそうだったから、二人で呑みに行くのも良いかも、ってそう思って。
1ヶ月経っても一度もトーク履歴に出てくる事は無かった"AA"の文字を友だちリストから探した。
初めてのトークって何故か少し緊張する。
何度も入れては消して、悩んで入力した文章は、
"明日仕事終わり、あの居酒屋で"
たったそれだけの十数文字。
こんな短い文章に10分以上も掛かってしまった。
時刻はすでに日付が変わろうとしていて、慌てて送信した。
髪を乾かしたり、
テレビを見たり、
待っても待っても返信がくる事は無くて。
既読すら付かなくて。
あんなに悩んで、結局遅くなって。
もう少し早く送ってたら返信が来てたかもしれない。
少し後悔しながら、鳴らないスマホを枕元に置いて眠りに就いた。
朝起きて気付いた返信が嬉しくて、
いつもは低いテンションが幸せな気分に変わった。
"おはよ、昨日はお疲れさま。また会社で"
"おはようございます。また後で"
いつもより早く支度を済ませる事が出来、
まだ差程混んでいない電車に乗り込んだ。
仕事が終わるのが待ち遠しい。
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作者名：れおな | 作成日時：2020年12月10日 6時
