月に恋せよ暦ガール 【6】

月恋 第249話 【お説教はまたあとで】 ページ11

珍しくAちゃんから電話がかかってきたと思ったら、ツキノ寮の前にある木に登って降りられなくなったから助けてほしい、という内容で。

慌ててグラビの共有ルームから、木に面した方の窓を開ければ、木の枝に座り白田を抱え、あまり困っていなさそうなAちゃんに笑顔で手を振られた。
まさかの展開に今までにないくらい動揺を露にしてしまった。

兎も角、どうしてそうなったのか理由はあとで聞くとして。すぐさま冷静さを取り繕い彼女がいる木の下へと駆けつける。
木の根本に、Aちゃんのコートとマフラー、それから靴下とローファーに鞄までが置いてあった。

白田も一緒にいるということは恐らく、最初に木に登って降りられなくなってしまったのは白田の方だろうか。そして、それを助けようとしたAちゃんも降りられなくなった、と。

「あのー、春さん。まずは白田ちゃんを降ろしてあげても良いですか? 長時間ここにいたみたいで、凄く体が冷えちゃってるんです」

Aちゃんの腕のなかで、 プルプルと震えている白田の姿が木の上からでもわかった。

自分も薄着なうえに裸足で寒いであろうに、白田を優先して助けてあげようとする彼女の優しさに胸を打たれ、あとで無理したことを怒る気が少しだけ失せてしまった。

「わかった。
じゃあ、まず白田を俺の方に渡してくれる?」

「はーい。
いくよ、白田ちゃん」

白田が頷くのを確認してから、Aちゃんは俺へ向かって木の上から白田を降ろした。

上から降ってきた白田をキャッチし、すぐさま自分が着ていたカーディガンで白田の小さな体を包む。

そして次はAちゃんの番である。

「おいで、Aちゃん」

彼女に向かって腕を伸ばす。

「え、いや、私、自分で降りれ――」

「いいから。遠慮せずにおいで。心配しなくても、俺がちゃんと受け止めるよ」

首を横に振り、自分で降りれると言おうとした彼女の言葉を遮る。

「で、でも……」

「大丈夫」

それでも渋る彼女にだめ押しで優しく微笑みかければ――――根負けしたらしく、彼女は意を決し、俺の胸めがけて木から飛び降りたのであった。

そして俺は両腕に軽い衝撃を受けたと同時に、飛び降りたAちゃんを見事、受け止めることに成功。

彼女の軽さに驚きつつも、俺は冷えきった華奢な体を目一杯抱き締めたのであった。

お説教は彼女の体を暖めた後ですることにしよう。

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