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川岸に来てから目を細めれば微かに動く渡り船が見える。
「あそこに信ちゃんがおる。」
「ど……どこに？真っ暗で何も見えへん。」
「この川の流れにうまいくらい隠れておる。あの場所まで泳ぎますよ。」
「ちょ、泳げへんって。」
「僕に任せてください。」
背後から聞こえる声に隆平は再び紐で手を結ぶ。
「大丈夫なん？」
忠義は半分涙目でそう口にする隆平は小さく笑う。
「逃げるのは二回目やから僕。」
「りゅう。」
「逃げれると思えば、逃げれます!!!」
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夜の大川に身を投げた二人の姿を見たのは野次馬で来た花街の人や追手皆が見ていた。
ひらりとまるで宙を飛ぶかのように川に飛び込む。
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驚きの声を上げる人、悲鳴を上げる人もいた。
念仏を唱える人までいた。
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追手が川に行くと川面に浮かぶ真蛇の面を見て左右に首を振るのはもう無理だと告げた。
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「お前、もう少しゆっくり手をかけろ！ひっくり返るだろ！」
「忠義さん溺れちゃうでしょ。早く引っ張って。」
ブツクサ文句を言いながら信五は濡れた手を引っ張り上げると何とか船に体が上がる。どれくらい流されたのか分からないが対岸には微かな灯りが動いているのが見える。
「あれは……」
「あれは追いかけてきた人やな。」
新月の夜はどんなに目が慣れていても真っ暗であまりにも見えない。なのに、二人は慣れたように動
いているのだから忠義は不思議に思えてしまう。
「助かった。」
声を上げて船が揺れ、無事に乗り込めばお互いずぶぬれ状態で肌に冷えが伝わる。
「しかし、流されずにここまで来れたな。」
「流されて海まで行っちゃうかと思いましたから。大川を完璧に舐めてた僕。」
「そりゃ、あの先に行けばすぐに海に入る。流れはもっと早くなってこの船でも無理や。」
着ていた着物を川に投げ入れると急に手を差し出されキョトンと見てしまう。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2021年11月5日 16時
