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「そんな事起きたら花街どころか江戸で大騒ぎですって。」
「たしかに。でも、瓦版屋が熱く語るからほんまかと思いました。」
隆平の言葉に男はため息をしてから手に持っていた瓦版を手に取り悔しそうに言う。
「盛大な脚色して書かれていますから。でも、間違いではないですけどね。」
「間違いでない？」
「その面ですよ。道成寺の面なんて付けてどこの男かと思いましたから。」
むっとした口調で言う言葉に隆平は妙に納得する。道成寺と言えば当時では有名な歌舞伎の演目の一つであり、蛇の化身としてこの面をつけた姫が登場する。
「紫苑から何も聞いていないから最初はびっくりしましたよ。」
「りゅうさんもびっくりですよね。」
「まぁ……」
濁した言い方になるのはあまり話せば何かがばれてしまう。
そんな不安もあったりする。
瓦版を受け取り胸元にしまい込むと隆平は店を眺めていると男は盛大なため息をしてから口にした。
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「身請け前日に起こした出来事なのに先方はあっさりとしていて。」
「え？怒ったりしなかったんです？」
「まったく。」
その言葉に意外過ぎて拍子抜けした感覚になるが相手には伝わらないように「驚きですね。」なんて言うと男はしゃがみ込んでから隆平を見て言う。
「まぁ、道楽で連れて行く気だったんじゃないかって上の人は言うてましたけど。紫苑亡くなって文句を言うことなく別の子を選んで身請けしたんで。」
予想外の言葉に隆平はポカーンとしてしまうと男は頷いて言う。
「そんなもんですって、金持っている人の考えなんて庶民には分からないんですから。」
「ははは……びっくり。」
「ですよね。りゅうさんもこの先は店には……って感じですよね。」
「まぁ。」
「贔屓がいなくなったらそうなりますって。また、気が向いたら話にでも来てください、俺らは金がかかりませんから。」
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面白い事を言う人だと隆平は思ってしまう。
男は軽く肩を叩いて店に戻るために大通りに出ると少し時間を置いてから同じように道に戻る。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2021年11月5日 16時
