Ａ／Ｌ ３

121 ページ21

.


季節3巡り


考えたら時間だけは進んでいく。







スマホを処分したのは諸事情と言えばカッコええけど、実際は夜の仕事の関係。







急に仕事を辞めれば今までの客から連絡は来るのが目に見えてわかっていたし、あっさりと終われるんでは？なんて思われそうだけどそれなりに顧客と個人のやり取りをしていたらそうもいかへん。
納得してくれる人だけじゃないのは確か。






辞めることを言うてから動いても1週間はかかる。









その合間に事務所として使っていたあの部屋を解約して荷物を持って来て、家の引っ越し……
自分だけが知らなかった事実。








めんどくさすぎて言葉にするのも嫌になる。








.




パチン








枝を切り
手に取り盛大なため息をしてカウンターに座って眺めクビを傾げる。
店は既に閉まり、残っているのは俺だけ。







こういうのは持って生まれた才能が大きいと思う。







感性の世界だし、俺みたいに頭が空っぽの人間がすべきもんやないと思う。






茶道に向いてないと父に散々言われた自分がここで花を見て何ができるって言う？







枝をバケツに入れ飲みかけのペットボトルを手に取って駐車場に行くと少し先に見える華やかな世界。







時間だけがアホみたいに過ぎていく。






「マジ、なにしているんだろ……俺。」






なんて口にするけど無駄なあがき。







ポケットに入れたままの電子タバコを口に銜えため息と同時に息を吐き出す。楽しそうに歩いている人を見ていたら不意に思い出すのはあの出会い。







.



喫茶店のたんなる客の俺があんな楽しい時間過ごせるなんて誰が思う？
通うたびに色々な刺激を貰って、遊んだり酒飲んだりマジに経験したことない有意義な時間やった。ほんま、道を踏み外す前に出会っていたらもう少しはまっとうな道を俺は歩けたんかな。








いや……生まれた時点で終わっていたから無理だって。








考えたらあの人たちに全てを話してなくてよかった。







なんて今更思う。






アホよな。






「帰ろ。」








なんて口にしてきたドアを再度開けて中に入った。




.

122→←120

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す