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綱渡り ページ4

降参するかのように両手をあげたまま
きょとんとした表情を浮かべた紫城は

年齢よりも幼く見えたし
伏見としてはそんな表情を見たのは初めてだった


しかし、紫城は
伏見の視線が注がれる場所を理解しながらも
不思議そうに伏見を見上げるだけだ

近くを通った別の青服や
遠巻きに見ていた青服に緊張が走ったのを感じたが
伏見はゆっくりと手を離した

けほりと1度咳き込んだ紫城は
伸びた襟元を整えながら、不満げにため息をついた


「なんだよ、もう。
怖い顔しちゃってさ」


「その傷。
お前、自分で焼いたのか」


「喧嘩売られてさぁ、ついつい深手負っちゃって」


「お前がそんなヘマするかよ。
喧嘩慣れしてて、弱くなかったはずだろ」


「油断したんだって。
ちょっとぼんやりしてただけ」


へらりと笑う紫城に、伏見の表情は険しくなる
面倒だなと思い始めた紫城は
その傷を隠すように手で覆う


「それだけ?
俺もう帰るよ。用が済んでまでここに長居したくないからな」


「…あぁ」


今度こそ
出口に向かって行く紫城を止める手はなかった


がり、と伏見が徴の痕を引っ掻いた


「(あいつ…いや、まさかな)」


伏見は感じた違和感を振り払い
宗像へ書類を渡す為に歩みを進めた



外へ出た紫城は
踏みしめた地面から舞った火の粉に眉を顰めた

バーへ向かうつもりだった足を方向転換させ
人が少ない路地裏へと足を進める


「(思いのままに能力を操れる日なんて
そんなの、来なくていい)」


可能性を
その方法を知っている

きっと、おそらく間違っていない


けれどそれは同時に
紫城に消えない傷を残しかねない

だから望まなかった
思いのままなんて
中途半端でいい


けれどもしかしたら
中途半端でなければ


救える命があったのかもしれない



重ねた小さな嘘と
自分さえ騙した嘘は

その身を蝕み


溜め込んだ毒は
今にでも外へ溢れだしそうだった


それを抑えて
適度に発散する

その方法が一体いつまで続くのか




爆弾を抱えているのと変わらなかった

指切りの約束→←違う色でも変わらぬものはある



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作者名:鍵宮 | 作成日時:2019年7月9日 19時

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