イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ34)

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194.BELLE。ページ34

先生の部屋は三階の一番奥。

先生曰く『このマンションの中で一番歩く距離が長い部屋』

確かにエレベーターが無くって階段だし、奥の端っこだしここに住んでる人の中では一番歩かなきゃいけないのかな。

その部屋の前で、先生がドアに鍵を差し込む。
すぐにガチャ、っと開錠された音。

「どうぞ」
「あ...お邪魔します...」

開かれたドアの向こう。
一歩入れば、先生の匂い。

思わずクンクンと匂ってしまう。

「あー、煙草臭いよな。ごめんごめん」
「えっ！？ううん、大丈夫です！」

煙草の匂いだって、先生の匂い。

「散らかってるけど。入って」
「...はい」

先に部屋に入って行く先生の背中を見ながら、私も靴を脱いで「お邪魔します」と小さく言いながら部屋に上がった。

短い廊下にドアが右側に一つと、左側に二つ。
きっと、左側の二つは洗面所とトイレだろうと推測。
右側は、寝室...なのかな。

廊下の突き当りがリビングとキッチン。
男の人っぽい、殺風景な部屋。
例えば、観葉植物とかフィギュアとか。そーゆー『飾る』為の物は一切無い。

あるのはソファと、テレビとギター、冷蔵庫。
キッチンカウンター代わりにしてるっぽい、背の低い食器棚。
それからLINEに送られて来る写真で見た事のある木目のローテーブル。

ホントに先生の部屋なんだ...。

急に実感して、震える位に緊張して来た。

ストールを外した先生は、キッチンの前で口に煙草を咥えてる。

あ...本棚はどこにあるんだろう。

キョロキョロしてると、煙草を吸ってた先生が笑った。

「そこ、ドアあるでしょ？」
「え？」

言われた先を見れば、テレビの横に確かにドアがある。

「その奥が書斎。本棚はそこにあるよ」
「書斎！格好良い！」
「良いでしょ。オトナの特権」

私がそのドアに駆け寄ると、先生は煙草を消してこっちに来てくれた。

「入りたい？」
「入りたい！」
「さぁベル、どうぞ」
「えっ！？フフッ」

キザな台詞に胸がキュンとする。

「野獣はね、ベルに図書館をプレゼントしてくれるんですよ！」
「アハッ、さすがに部屋をプレゼントは出来ないけど」

ドアを開けながら、先生は言う。

「いつでも好きな時に来たら良いよ」

四畳程度のその部屋には、アイアンの棚に本が並んでいて

図書館というか、小さな倉庫のよう。

その奥に机がある。

「見ても...良い？」
「フフッ、どうぞ？」

お婆様の家の本棚とはどこか違う。

まるで先生の秘密を、全身に浴びてる気分だ。