イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ28)

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188.一筋縄。ページ28

「関係が変わったんだから、呼び方も変わるのは自然なコトじゃない？」

関係が変わった。
それを先生が言ってくれる事が、嬉しかった。

「そっか...」
「うん」
「そう、ですよね」
「そうですよ」

ンフフって可愛らしく先生が笑う。

「じゃあ...二宮、さん？」
「嘘だろ、今更苗字？」

だよね、だよね、分かってる！
分かってるんだけど.....やっぱり、恥ずかしくて言い淀む。

「一般的に、そこはファーストネームじゃない？」

黙ってる私に、先生が助け舟を出してくれた。

「和也...さん」
「言いにくくない？カズで良いよ？」
「ううん！呼ぶなら、『和也』ってちゃんと呼びたいんです！略したりせずに」
「えっ？」

あまりにも私が勢いよく言ったからか、ちょっと驚いた顔をした先生。

「あの...私、先生の『和也』って名前、すっごく先生に似合ってるって思うんです」
「そうなの？」
「先生が私の担任になってくれた時、先生は黒板に自分の名前を書きながら...」

今でも鮮明に思い出す、あの日の光景。

そこから始まる1年を想像するだけで、泣きそうに嬉しかった3年生の最初の日。

「カズナリ、って強調したんです」
「アハッ、そうだっけ」
「カズヤじゃなくて、カズナリ！って。それが何か、一筋縄じゃいかないってゆーか」
「ンフフ」
「先生っぽい名前だなってずっと思ってて」
「何よ、オレが一筋縄ではいかないってコト？」

どちらかと言えば...ってゆーか、どちらとも言わなくてもその通りだと思うから頷くと

先生は、また可笑しそうにケラケラ笑った。

「だからね、カズって略すのは勿体無い気がして」
「勿体無い？」
「こんなに似合う素敵な名前なのに、って」
「そんなに褒めてくれたら、母ちゃん喜ぶわ」

先生にもお母さんが居るのは当然なのに、何だか妙に現実味を感じてドキドキが苦しい。

「だから、和也さんって呼びたい...です」
「ンフフ、うん。分かった。でも1個、注文」
「注文？」
「『和也さん』は、やだ」

残ってたサンドイッチを頬張った先生に「え？」と言うと「ん？」って、横目で私を見る。

「和也さん...じゃなかったら、何て？」
「呼び捨て」
「えっ！？」
「もしくは、『和也くん』」
「えぇっ！？」

歳上の先生を呼び捨てか、くん付け！？

「だってさぁ、そうやって呼んで貰えたら年の差感じなくて済みそうでしょ？オレが」
「.....」
「オレの為に、お願い！」

顔の前で両手をパチンと合わせて、先生が笑った。