イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ17)

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177.悲鳴。ページ17

「それにしても」

先生がコーヒーを一口飲んで、ポツリと呟く。

「オレに『違うよ』って言わせたくって、本当は思っても無いのに悪口だーなんて言ったの？」
「え...あ...」
「会話をコントロールしようとした？」
「...うん...出来なかったけど...」

楽しそうに先生は肩を揺らして笑う。

「お前もいっちょまえに、そんな計算するんだね」
「えっ！？計算って...そんなんじゃ無いし！」

計算する女って、何か良い響きじゃ無い。
そんな風に思われたくない、どうしよう！

「フフッ、何焦ってんの」
「...だって、何か恥ずかしい...あざとい感じがして」

何だかいたたまれなくて、取り繕うようにコーヒーを飲む。

「あざとさも時には必要だと思うよ」
「...え？」
「それに引っ掛かるか、引っ掛からないかはオレ次第でしょ？引っ掛かってる振りをしてあげるって事も、たまには必要だしね」
「......」
「究極のサービス提供のし合いなんだよ、恋愛って。もちろん、良い意味でね」

先生は自分の膝に肘を置き、片頬杖をついて私を見た。

「こんな事を言ったら喜んでくれるかな？こうしたら笑ってくれるかな？これを見せたら楽しんでくれるかな？」
「......」
「そうやって相手のコトを考えて自分が行動を起こすのって、すげぇサービス精神だと思わない？」
「...そうかも...」

考えても無かった事を言われて、何だか久し振りに先生の授業を聴いてる時のワクワクを思い出す。

「でもオレは意地悪だから、お前のトラップに引っ掛かってやんなかたけどね」

本当に意地悪な笑顔。
でもその顔も、やっぱり好き。

「何か私、振り回されてますね」
「そう？」
「そうですよ。振り回され過ぎて、私の心臓は悲鳴をあげてます」
「黄色い悲鳴？キャー！って」
「ううん。悲痛な叫びです。うわぁぁぁ！って」

私が言うと、先生は心底おかしそうに大笑いした。

「でも...」
「うん」
「振り回されるのも、楽しいんだなって知りました」

だって、私こんなにドキドキしてる。
先生に振り回されるのが、私で嬉しい。
先生が振り回してやろうって思ってくれる相手が私だなんて、そんなの幸せだとしか思えない。

「もっと振り回されたい」
「......」
「好きな人に振り回されるのって、幸せなんですね」
「ンフフ。その思考はちょっと危険だけどね。不幸人生に向かっちゃうよ？」
「そうなんですか？」

先生が、困ったように眉を下げて

「オレも振り回されてんな」

俯き呟いて、微笑んだ。