イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ12)

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172.30分。ページ12

「じゃ、オレそろそろ行くわ」
「え...？」

まだあと30分は仕事なのに、もう行っちゃうの？
一緒に帰るって言ってたのに...。

「ほら、また顔に出す」
「......」
「車取りに行くだけでしょうが」
「あ...」

先生が、フゥって溜息交じりで笑う。

「待ち合わせは昨日と同じで良い？」
「...はい！あ、片付けときます」

テーブルの上の使用済みマグを取って、「ありがとうございました！」って他のお客さんにもするのと同じように頭を下げた。

「じゃ、また後で」
「...また、後で」

プッって吹き出した先生を見て、また私は顔に出してしまったんだろうなって思ったけど、一度出しちゃった表情はもう修正できない。

本屋を通る先生に加藤さんが会釈をして、先生は手を軽く挙げる。
そんな姿を見て、私はあと30分仕事を頑張った。

・

二日連続で先生に会える。
そう思ったら、服を選ぶのも慎重になった今日の朝。

昨日と今日で似たような服装にならない方が良いのかな...？と思ったり。
昨日はちょっとでも女の子らしく見られたくてスカートを履いたけど、いつもそんなフワフワした格好してんのか？って思われるのもちょっと違うかもしれない。

そう思って、デニムに脚を通した。
だけどやっぱり男子っぽくはなりたくなくて、ロールアップしてヒールのパンプスを合わせて家を出た。

でも今は冬。
ストッキングを仕込んでるとは言え、丸出しの足首は寒い。

「...さむ...」

店を出て、桜公園までの道を歩きながら足首の寒さを誤魔化すようにニットストールをグイグイと口元に引き上げる。

だけどチラっとコンビニのガラスに映った自分に目をやると、その寒い足元が凄く大人の女って雰囲気に見えて何だか嬉しくなった。

桜公園の前には、昨日と同じように車から出て私を待ってくれてる先生。

「先生！」

やっぱり走り出してしまった私に、彼は笑う。

「走んなくって良いって」
「だって」
「だって？」
「...何でも無い」

ちょっとでも早く近くに行きたいから...なんて、とてもじゃないけど言えない。

「そんな靴で走ったらこけるよ？」

先生が私のヒールを指差した。

「こけませんよ！」
「だったら良いんだけど」

ずっとヒール見てる。

...似合ってないのかな...

「雰囲気違うね、昨日と」
「...変ですか...？」
「変だなんて言った？」
「......」
「似合ってるよ、って言おうと思ってたのになぁ」

もう言わない、って笑った先生が助手席のドアを開けてくれた。