イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ11)

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171.イシキ。ページ11

仕事をしながら、チラチラと先生の後姿を見る。

猫背。
ふわふわ柔らかそうな髪の毛が、後頭部でちょっと跳ねてる。

カウンターから出て備品を補充しに行くついでに、先生に話しかけようかな？って思ったんだけど妙に緊張してしまって、先生の後ろを通る時無駄に早足になってしまった。

付き合う前よりも、どうしてなのか近付けない。

何だか遠く感じてしまってる背中を見詰めながら、お客さんが帰った席のテーブルを拭く。

「ちょっと、露骨じゃない？」
「えっ！？」

振り返ると、ハードカバーの本を何冊か重ねて持ってる加藤さん。

「だってAちゃん、全然先生と喋ってなくない？」
「...そうですか？」
「俺にはそう見えるけど」

違った？って加藤さんは笑って、そのままバックヤードに入って行った。

露骨...。
先生もそう思ってるかな...。

ダスターをギュっと握り締めて、先生の背後に近付く。
ソォ...っと手元を覗くと、推理小説の謎解き部分。

「あっ！」
「えっ！？」

大声を出してしまって、先生が肩をビクっとさせて振り向いた。

「お前...何なの、急に」

眉を下げて、フハ、って笑う。
その笑顔にキュンとして、私はこんなにも先生と話したかったんだなぁ...って実感。

「その小説、まだ読んでないのに謎解き見ちゃったから...」
「あーあ、残念だったね。残念ついでに、真犯人も動機も共犯者も全部教えてあげようか？」
「えっ！？共犯者も居るんですか！？」
「あ」
「ひどい」

むぅ...となった私に、先生は「わるい」って笑って自分の頭をポリポリ掻いた。

「じゃあ、教えて貰います」
「読まないの？貸してあげるよ？」
「良いんです。教えてください」

だって、何かそれも良いかもしれない。
先生の読んだ本の話を、先生の声で教えて貰うなんて。

殺戮系の作者の本だから、そんな甘い雰囲気にはならないだろうけど。
それもきっと、面白い。

「ねぇ、結城」
「はい」
「あとどれ位で仕事終わる？」
「あ...あと、30分です」

先生が腕時計を見て「30分ね」と呟く。

「ずーっと無視されんのかと思ったわ」
「え？」
「こないだまでは暇になったらすぐちょっかい出しに来てたくせに、今日は全然来ないから」
「ちょっかいなんて出してません！」

何か恥ずかしくなって、先生の肩を軽く叩いたら

「意識してた？」

そんな事を言って意地悪な顔。

「...してないし」

先生は「そっか」って言ってるけど。

私の事なんて、お見通しみたいだ。