イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ7)

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7.好きなモン。ページ7

出席番号1番から、先生が机の横を歩きながら名前を読み上げ

呼ばれた子は手を挙げて、返事。

その子の隣で立ち止まった先生が「好きなモンは何ですか？」って訊く。

『焼肉！』とか『桃』って食べ物の子もいれば

48人組みの女の子アイドルの中の所謂『推しメン』だったり、イケメンアイドルグループの所謂『担当』だったりを答える子も居た。

他にも、飼ってる犬だったり、女の子だけど『ゲーム』って子も居て、先生が「気が合いそうじゃん」って笑ったのが羨ましかった。

どんどん自分の番が近付いて来る。
先生も、近付いて来る。

「結城A」

名前を呼ばれ、手を挙げて

「はい」と返した私の声は、何だかちょっと掠れてた。

「好きなモンは何ですか？」

視線を上げると、真横に立ってる先生が私を見下ろしてる。

好きなのは.....『先生』以外に思い付かない。

ん？って表情で目を見られて、思わず「先生」って答えてしまいそうになった唇をキュッと噛む。

「...日本語が、好きです」

精一杯のアピールのつもりだった。

『国語』って答えようかと思ったけど、それは直球な気がしたし
『読書』って答えられる程、本に詳しくはない。

「へぇ。珍しい答えだな」

先生の目が、緩い弧を描いた。

「オレも好き」

日本語は美しいよな、って私の頭にポンと手を乗せて

その重みを少し残すようにして後ろの席の子の名前を呼びながら、手を離す。

手が離れても、先生の手の重みだけが頭に残ってるような気がして苦しくなった。

泣きそうな気持ちを、どうしたら良いのか分からない。
目の奥が熱くて、喉の奥がシクッと痛む。

嬉しいんだか、何なんだか、それすらよく分かんなくて

ただ、やっと先生の生徒になれた実感がフツフツと湧いてきてやっぱり、私は泣きそうだった。

泣きそうになりながらも、フフッて勝手に溢れる笑いを隠す為に肘を付いた手で口元を覆った。

それからの毎日は、学校に来れば先生に会える日々。
これまでは、会えない日だってあったのに。

来れば必ず朝と夕方には、会える。

先生の『朝の挨拶』と『帰りの挨拶』が聴けるのが、嬉しくて仕方無い。

「さよなら」の後には「解散！」って言いながら両手の甲を前に出して、ヒラヒラと揺らす。

帰る事を促してるその仕草が、ちょっとだけ切なくて、だけど先生らしくて好きだった。

・

ねぇ、先生。

『先生の生徒になれた』って喜んでたあの頃の私は、まだまだ甘かったんだね。