イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ40)

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40.反応。ページ40

「...そんなの...居ないよ」
「嘘だ」
「.....嘘じゃないよ？」
「ふーん。フフッ、いつか話してねー」

私の言葉を全然信じてないっぽい彼女は、お皿に残ってるサンドウィッチに手を伸ばした。

私も、残りのサンドウィッチを食べてカフェモカで流し込む。

突然、胸がトクトクと走り出した。

先生と1度だけ会った...とゆーか、先生を1度だけ見掛けたお店。

小さな、先生との接点。

先生は、何度くらいここに来たんだろう。

もしかして、今でも...？

今でも、来てたりするのかな...。

フゥ、と息を吐いて高い天井を見上げる。

リノベーション前からあったんであろう、立派な梁が目に入った。

その内少しずつ、お客さんが増えて来て

「あー...服欲しいなぁ」
「私、靴が欲しい」
「買い物行こうか！」
「良いね！」

この後の予定も決まったから、そろそろ行こうかと帰る準備を始めた時。

お店の扉が開いた事に反応したのか

加藤さんの、「いらっしゃいませ、こんにちは」って声に反応したのか

自分が何に反応したのか、分からなかったけど

ふと、目をやった先に

ふわぁ、とアクビをしながら新刊の棚から1冊の本を手に取りレジに出してるその人を

見付けてしまった。

髪が、少し伸びた？

猫背なのは変わらない。

色白なのも、あの頃のまま。

本に深緑色のカバーを掛けて差し出した加藤さんに「ありがと」って言う時見せた、片方の口角を上げるその表情も...知ってる。

彼は買った本を持って、カフェのカウンターに進みメニューボードを見る事も無く何か頼む。

店員の女の子と何か喋りながらドリンクが出て来るのを待って、出来上がった物を手にすると庭に面した窓の前にあるカウンターテーブルに座った。

パーカーを着た、後ろ姿。

高めのスツールで片方だけブラブラさせた脚を、その後スルッと組んだ。

400日振り位に見た先生は、一瞬で私を高校生に戻してしまう。

「Aちゃん？」
「えっ...？」
「どうしたの？知ってる人？」
「あ...ううん！あのお庭も綺麗だなーと思って！」

先生が座るカウンターテーブルの向こうにある窓を指さして、笑ってみせる。

「ホントだねぇ、素敵」
「ね！...じゃ、行こっか」
「そだね！服、服ー」

ウキウキして立ち上がったいろはちゃんと一緒に私も立ち上がって

店を出る前に、もう一度だけ振り返って先生の後ろ姿を見た。

その人は、私に気付く事も無く

背中を丸めて、買った本を読んでいるようだった。