37.せっかく。 ページ37
せっかくなのに
せっかく、自由に恋愛を楽しめる時期なのに
私は実りもしない想いに、未だに縛られて動けない。
もう、話す事も出来ない
その姿を見る事すら出来ない相手を
いつまでも、思い出す。
...いっそ、もっと突き放してくれたら良かったのに。
男なんて大嫌い!って思ってしまう程に、冷たく拒否してくれたら良かったのに...。
意地悪で優しくない二宮先生に抱き締められた腕の力を、私は忘れられないでいる。
あの感覚を、あの想い出を、あの匂いを、他の人に上書きされたくない...なんて思ってる内は楽しい恋愛なんて出来ないんだろうな...と、軽く絶望。
友人達が彼氏や彼女を作って恋愛に勤しむ姿を、眩しいなぁ...って思いながら眺めるしか無い毎日。
授業を受けてると、時々、堰を切ったように想いが溢れ出して泣きそうになる事がある。
この教室に先生も居たんだって、無意識に意識、してしまってるんだなって自覚する。
失敗だったかもしれない。
この大学に来たのは、やっぱり自爆行為だったかもしれない。
そんな事を考えながら、私はキスの経験すら無いまま季節を越える。
先生の姿を思い出しては、胸の痛みと戦って
先生の言葉を思い出しては、悲しみに襲われて
私にとっては、先生を見付けてしまった事自体が、そして恋をしてしまった事自体が
大きな傷に、なったんだ。
その傷は、時間が経つにつれ塞がるどころか、どんどん広がって深くなる。
みんなはどうやって、失恋の傷を癒してるんだろう。
私には、その方法が分からない。
全然、分からない。
時間が解決するって、人はよく言うけど
解決する所か悪化する問題もあるんだって、私は嫌って程に知った。
・
花粉症に奮闘する二年目の春。
「おはよ!ねぇ、Aちゃん!」
「おはよ、どうしたの?」
朝からいろはちゃんが、ウキウキした顔で話し掛けてきた。
「高校の時の先輩がバイトしてるお店に初めて行ってきたんだけどさ」
「うんうん」
「すっごいAちゃんの好きそうなお店だったの!」
「へぇ、何屋さん?」
「本屋さん!...ってゆーかカフェ?本屋さんにカフェが併設されてて、とにかく素敵な雰囲気なんだよね」
本屋さんに...カフェ...?
「今週の日曜、Aちゃんが暇だったら一緒に行かないかなー?って」
思い出すのは、勉強漬けだったあの暑い日。
「...うん、行きたい。...行ってみたい!」
思い出すのは、キャップを被った
あの横顔。
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作者名:rei | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時:2015年11月20日 13時