イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ33)

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33.SIGN。ページ33

涙を掌で拭きながら、鼻を啜る。

そんな私を見ながら、先生は「そうだよな...」って呟いた。

ふわり、頭に乗せられる先生の手。

「よく頑張った」

ふわふわ、撫でられて

その重みが、愛おしくて、苦しくて、目をギュウっと瞑る。

本当はもっと欲しい物がある。

でもきっと、先生はくれない。

だったらせめて、他の子と同じことをして欲しかった。

何も変わらないくせに、こんな事だけ変わるなんて先生はやっぱりズルくて優しくないから

「先生は...ずっとずっと、意地悪でした...」

そう言うと

「かもしんないね」

息を吐くような小さな声で、先生は言った。

・

卒業式は当日になっても実感が無かったのに、スーツ姿の先生を見た瞬間に「私、卒業するんだ...」って思った。

式典のある体育館に入るといつも白衣の大野先生もスーツで、その姿に何人かの女子が嬉しそうな、でも寂しそうな顔をした。

私はずっと二宮先生から目が離せなくて、卒業証書授与で「結城A」って名前を先生に呼ばれた瞬間、もうこうやって呼んで貰えないんだ...って、涙が落ちた。

泣きながら壇上に上がる私を見た二宮先生はきっと、私を「やっぱ子供だ」って思ってるんだ。

そう思いながら先生をチラっと見ると

マイクから口を離して

「おめでと」

そう、口を動かしたから

止めたかった涙は止まるどころか、式が終わるまで止まらなかった。

最後のホームルームが終わると、男子の誰かが「ニノちゃん！生徒手帳にサインしてー！」って言い出して

「サイン？オレ、そんなの無いんだけど」

先生が、困ったように笑う。

「何でも良いから！記念に書いてよー」
「はぁ？何でもって...」

あれよあれよと教壇の周りには生徒手帳を持った生徒が集まって、先生は「オレ様サイン会」って笑ってみんなの手帳に何か書いて行ってた。

先生のサイン(？)を貰って帰って来た隣の男子に「何書いて貰ったの？」って見せて貰ったら『三年間よく頑張りました！二宮和也』って見慣れた先生の文字。

逆隣の女の子にも見せて貰うと『大学へ行っても頑張りなさい！二宮和也』
その後ろの子は『部活、よく頑張りました！二宮和也』

どうやら何か一言と普通に名前を書いてるみたいで、私も書いて欲しくって生徒手帳を出して先生の元へ歩く。

「私にもサイン下さい」

ん、と頷いて生徒手帳を受け取った先生が

少し何かを考えるように、ペンを指の上でクルリと回した。