イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ25)

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25.ドラマ。ページ25

廊下を走った。

誰も居ない廊下を、走った。

昇降口で靴を履きかえて外に出た時、傘を持ってない事に気付いた。

せっかく先生が持ってけって言ってくれた傘。

ソファの所に立て掛けたまま、置いて来てしまった。

「......」

でも、もう戻れない。

空を見上げる。

鼠色の空からはポツポツと雨が落ちて来てるけど、さっきまでの豪雨に比べたらマシ。

それに、雨で涙を隠せる。

私は小さく息を吐き出してから、雨降る中に走り出した。

ドラマだと、こーゆー時って主人公はちゃんと追いかけて来て貰えるんだ。

「待てよ！」って声に、振り返った瞬間抱き締められたりするんだよ。

思わず立ち止まって、振り返ってしまう。

期待なんてしてなかったはずなのに、誰も居ない事に悲しくなって

俯き、足元の水溜りに小さな波紋がいくつも広がるのを、ジっと見詰める。

「......バーカ」

先生が追いかけて来るはずが無い。

現実にドラマなんて起きないんだ。

「寒...っ」

この季節に雨の中、傘も差さずに居るのはやっぱり間違ってたかもしれない。

どこかで傘を買おうにも、駅前までコンビニは無い。

急ごう...そう思った瞬間、顔に当たる雨粒が増えた気がしてまた空を見上げると

雨粒はどんどん増えて、止みかけてたようだった小雨はあっという間にまた大雨に変わる。

何で、こんな部分だけドラマみたいなの...

こんなドラマ、全然いらない！
全然嬉しくない！

悔しくて、辛くて、悲しくて、涙が後から後から溢れて来る。

冬の雨が身体を冷やして行く。

制服を通り抜けて、私の身体を冷やして行く。

私は、天気にも見放された。

何だか、この世に一人ぼっちになった気分だった。

・

ビショ濡れで帰って来た私を見たお母さんは、慌ててバスタオルを持って来て

「電話したら迎えに行ったのに！バカッ！」

そう言いながら、私の頭にバスタオルを被せて犬を拭くみたいにワシャワシャした。

「風邪ひいたらどうすんの！？受験前なのに...」
「......大丈夫だよ」
「ん？」
「私、どんだけ体調悪くたって絶対に合格するから...」

先生と同じ学校に行きたかった。

だけど、「それは違う」って嘘ついた。強がった。

「......絶対に」

でも東山に合格しなかったら、先生に「やっぱりアイツはいい加減な理由で志望校決めてたんだな」って思われるかもしれない。

私の想いはいい加減なんかじゃ無い。

いい加減なんかじゃ、無かったんだ。