イロコイ・ライン【ars K.N】 (ページ16)

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16.志望校。ページ16

「東山の文学部？」

放課後の教室、目の前に居る先生が目をクリンと見開いた。

個別の進路指導。

先生と教室に二人っきり。
私は先生にバレないように、緊張をほぐす為に何度も小さく深呼吸を繰り返す。

特に行きたい大学も、やりたい事も無かった私。

進路、どうしよう...あえて勉強するなら何の勉強がしたいかって考えた時、浮かんだのはやっぱり国語で、唯一得意だと言える教科も国語だった。

先生に好きなモンは『日本語』って答えてから、本も今までより読むようになった。
そしたらやっぱり面白くて、その世界を深く知りたいとも思った。

そして、ふと、国語の教師をしてるってコトは二宮先生そーゆー学部を出てるんじゃないの？って気付いて

だったら、先生が通ってた学校で学んでみたい！って思うのは、私としては自然の流れ。

本人に訊いて、そのまま「その学校に行きます！」って宣言するのは露骨過ぎるかなって思ったから大野先生からリークして貰ったとゆー訳なのです。

「文学部ねぇ...結城、国語の成績は良いもんな」
「国語の成績『は』って何ですかー」
「じゃあお前、他の教科も優秀だって言えんの？」
「...それは...言い難いですけどー...」
「ほらみろ」

先生が指の上でペンを回しながら、ククっと笑う。

「まぁでも、最初は進学って事しか決めてなかったのに志望校決めれて良かったじゃん」
「はい」
「でも一校だけ？あと何校か選んでおいた方が良いと思うんだけど。ちょっと今の成績だと東山ギリギリかもしんないし...」
「でも私、東山に行きたいんです。東山にしか行く気ありません」

手元に置いてる色んな大学の資料をペラペラと捲ってた先生の手が止まった。

「何で？志望動機は？」

ビー玉のように透き通る目が、ジっと私を捉える。

「好きな作家さんが東山出身で、たまに講師として講義してくれるって聞いて」

ホントの理由なんて言えないけど、先生に志望動機を訊かれたらちゃんと答えられるように色んなコト調べてた。
その作家さんの本も何冊も読んで、この質問に答える準備したんだから。

「あー、桜井佳乃先生ね。あの人の講義、面白いよ」

先生が懐かしそうに目を細めた。

「オレも東山の文学部だったの」

ちゃんと先生の口から聞けた事に声を上げそうだったけど、落ち着いて「そうなんですか！」なんて言えた自分を自分で褒めてあげたい。

「頑張ってオレの後輩になれよ？」

この言葉以上のやる気スイッチは無いよ。