智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ6)

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でもこの片想いは、決して楽しいものでは無かった。

相葉くんが小さな女子社員と喋ってるだけで、自分はどうしてこんなに背が高いんだろう...って思うし、私だって相葉くんを見上げたい！って思う。

ペタンコの靴を履いたって身長差は変わらないのに、私は今日もフラットシューズを履く。

「A先輩の足音ってコツコツじゃないよね」

ある日、営業先から帰って来た私と並んで歩き出した相葉くんが声を掛けて来た。

「コツコツ？何それ」
「女の子の足音って、コツコツでしょ？でもA先輩からはしないの、その音」
「あー、それヒールの音でしょ？私、履かないもん」
「何で？」
「え...」
「似合いそうなのに」

恋してるオンナなんて、本当に単純だ。
会社帰りに、私は靴屋に寄っていた。

パンプスを手にしてると店員さんに声を掛けられたけど、やっぱり履けなかった。

ヒールを履いて、相葉くんと同じ位の身長になってしまう自分を直視できそうにも無くて。

やっぱり私は、今日もフラットシューズを履く。
満員電車で隣り合う小さな女の子に少しの羨望を抱いて、嫉妬もして。

そして、やなオンナだなぁって自嘲して背筋を伸ばす。

「先輩、ちょっと良い？」

相葉くんに呼び出されたのは、終業後。
帰ろうとしてたら手招きされて、とりあえずついて行く。

何か不自然な歩き方の背中を追って屋上に出ると、彼はクルンとこっちを見た。

「どしたの？」
「先輩、明日誕生日だよね？」
「あ...うん」

何年も一緒に働いてるから彼が誕生日を知ってる事に驚きは無い。
毎年、誕生日にちょっと有名なお菓子とかくれる子だし。

「これ、プレゼント！」
「...えっ！？」

彼が隠して持ってた大きな紙袋を出した。
それを隠してたから歩き方変だったのか。

「開けて開けて！」

急かされてそれを開けると中から出て来たのは、ヒールのパンプス。

「え...？」
「履いてみてよ」

躊躇ってると「肩、貸してあげるから」と隣に並ぶから、断れなくてその場で靴を履きかえた。

「やっぱ似合う！」
「......」
「A先輩、こっち見て？」

顔を上げると、同じ高さに相葉くんの顔。

あ、と思ったのとキスされたのが同時だった。

「同じ高さだと、チューしやすいね」

悪戯っ子みたいな笑顔。

「...ねぇ、これちょっとサイズ大きい...」
「えっ！？じゃあ交換して貰いに行こ！」

彼と手を繋いで、地上175センチの世界を走り出す。

・・・・・END・・・・・