智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ47)

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物語の結末は、私が卒業して先生にも会えなくなっておしまい。

そう、思ってた。

だから

「五十嵐さん！」

卒業式が終わって、先生に呼び止められた時は「あぁ...私、泣かずにちゃんとサヨナラ言えるかな...」って緊張して。
必死でスーハースーハー深呼吸。
目の前まで来た先生、今日はスーツでとっても素敵。

「相葉先生、...本当に四年間お世話にな...」
「あのさ！あの...引かれるかもしんないんだけど...、先生失格かもしんないんだけど...」
「...はい？」
「五十嵐さんの卒業を俺はずーっと待ってたの」

んんっ...って先生が咳払いをして「...袴、似合うね」とか言いながら自分の後頭部に手を当ててる。

「あの、ね」
「......」
「卒業しても、俺と会ってくれないかな...」
「...え...？」

唇をギュっと噛んだ先生が、困ったように微笑んだ。

「好きなんだ、立場とか忘れちゃうくらい」

物語の結末は、アンハッピーエンドしか無いと思っていたのに。

私の物語は、どうやらここから始まるらしい。

先生が私の涙を指先で拭いながら

「俺、五十嵐さんに彼氏が出来ませんようにー！って呪い掛けてたから」

なんて笑うから、私もつられて笑った。

・

あれから数年。
私は相葉Aになった。

雅紀くんの応援もあって、小さな出版社からだけど絵本も数冊出して『職業・絵本作家』と名乗れるようにもなった。

彼は、今でも相変わらず優しい。

そう、雅紀くんは優しい。
ただ『誰にでも』優しいんだ。

雅紀くんが今もバレンタインデーに山ほどチョコを貰って来るのも、仕方無い。
ホワイトデーのお返しを「Aちゃん、いつもごめんね！」って私が用意させられるのも、奥さんだから仕方無い。

今年も女子大生が好きそうなバスグッズなんかを選びながら、少し溜息。
全然知らない子へのプレゼントの買い物で両手いっぱいになるのは、やっぱり複雑な気持ち。

そう言えば、今週末は学生達に誘われたからって雅紀くんが車を出して遊びに行くらしい。
男子学生も来るから大丈夫だよ！って言ってたけど、それって女の子も居るからねって言っちゃってるって事に気付いて無いのかなぁ...。

ヤキモチなんて、小さいな...って分かってても雅紀くんはずっと『みんなの相葉先生』なんだ...と思うと泣きたくなる。

私は結婚した今でも雅紀くんに恋したまんまで、だからいつも不安なんだ。

溜息が出そうになって「よいしょ」と荷物を持ち直し、歩き出す。