智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ24)

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●KOI【O】ページ24

「ご趣味は...？」

自分がこんな台詞を大真面目に言う日が来るとは、思ってなかった。

「絵を、描く事」

目の前に座るその人は、特にニコリともせずに応えた。

「趣味は？」

同じように訊き返されて「...読書、ですね」と応える。

本当はそんなに本を読んでる訳でも無い。
でも、他にこの場での『正解の答え』だと思える趣味が無い。

ホテルの日本料理店。
半個室のその席に、私と彼は二人きり。

出逢ったのは、つい15分程前。

『お見合い』なんて、この世に本当にあったんだ...と思う。
30歳になり、それでもまだ結婚してない私。
自分の名誉の為に言うと、これまで彼氏が居なかったとかそういう訳じゃ無い。
とことん、男運が悪かった...というだけ。
女癖悪かったり、ギャンブル好きだったり、紐体質だったり。

そんな私に伯母が持って来た見合い話。

もちろん、全力で拒否した。
だってお見合いって！
私は恋愛結婚がしたいんだ。お見合い結婚じゃなくて。

...男運は悪いけども。

だけど「写真だけでも見てみなさいってー！優良物件よ！」と言われて、興味本位で見てしまった。
所謂、お見合い写真ではなくって伯母のスマホの中に入ってる普段の姿を映しただけの写真。

「......優良...」
「でしょー？」

伯母が、してやったり顔で私を見た。

「これ、詐欺写真なんじゃないの？修正しまくりの」
「違うわよぉ。おばちゃん、会った事あるもの」
「......」
「おばちゃんのお友達の息子さんなの。そのお友達もね、『息子は結婚する気が無いのかしらー』って困ってたからうちの姪っ子なんてどう！？って話になって盛り上がっちゃって！」

アハハーンなんて陽気に笑ってる伯母のスマホから目が離せなくなってた。

不意打ちで撮られたのだろう。
家のリビングのような場所で、振り返った瞬間って感じのアングル。

トロンとした目尻に半開きの口。
でも、ちょっと口角が上がってるから嫌そうな表情では無くてきっと「やめてよー」とか言ってそうな雰囲気。

優良物件って言うか、タイプだった。
もろタイプ。

普通にしてても、こんなにタイプの男性に会った事は無い。
なのに、『お見合い』なんていうトンデモナイ形で転がり込んで来るなんて。

「じゃあ、後はお若い二人で...」

なーんて、お見合い度定番の台詞を言った伯母と、彼の母親である伯母の友人がいそいそと部屋を出て行った後。

私と彼は、シンと静まり返った中で向かい合っていた。