智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ11)

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●暗闇ゲーム【O】ページ11

今日もダメだった。

昨日も。一昨日も。
ダメだった。
決意だけは凄かったのに。

三泊四日の修学旅行。
三日目の夜、「無理だった...」と部屋の隅で膝を抱える。

この修学旅行で、絶対に告白しようって決めていた。

チャンスは何回もあったはず。
初日は同じテーブルでソーキそば食べたし、昨日は同じグループで水族館を回った。
今日だって、国際通りで何度もすれ違った。

そして、毎日ずーっと移動のバスは通路挟んで隣だったのに。

男子も女子も、みんなが「おーちゃん」と呼ぶその人を私はそう呼べない。
呼ぼうとしても、喉の奥がギュウって潰れたみたいになってこの口は「大野くん」って呼んでしまう。

でも、仲が悪いって訳じゃ無い。
むしろ、仲は良い方だと思う。
でも大野くんは誰とでも仲が良いから、私が特別って訳じゃ無い。

私、大野くんに恋してるんだ...って気付いたのは、彼が他の女子と喋ってるだけで泣きそうになる程に苦しかったから。
毎日毎日、苦しかった。
そして、あまりに苦しくてこんなに苦しくなる位なら玉砕覚悟で告白してしまった方がラクかもしれないって、決意した。

だけど、やっぱりいざとなると勇気が出なくて。
じゃあ、期間を決めよう！って『修学旅行中に』って決めて。

「...ハァ...」

敷かれた布団の上でみんながトランプをしてる部屋の端っこで、溜息。
ちょっとバス酔いが治らなくってしんどい...ってみんなには嘘ついたから、ソッとして貰えてるのが気楽なような、寂しいような。

「えーっ！？どうしたの！？」
「ヤバくない！？」
「先生にバレるってー！」

もうひとつ溜息を吐いた時、突然みんなが騒ぎ出して何事か？とそっちを見ると部屋に男子達がワラワラと入って来てた。

一気に心臓がドクドクし始める。
でも、彼も来てるかどうかは分からない。
でも、でも、ドキドキして息が止まる。

「おーちゃん！」

一人の女子が呼んだ。

彼は「あはー、女の子の部屋ー」なんてヘラヘラしてる。

体育の時間だって見てるはずのジャージ姿が、何故か格好良く見える。
普段より前髪がバサっと下りてるのは、お風呂上りだからだよね。どうしよう、格好良い。

「トランプしてんのー？」

男子の一人が言ってみんなの輪に混ざると、他の男子達もそこに合流してみんなは彼らが座れるようにスペースを作ってる。

そんな様子を、私は離れた所から眺めてた。

だって、しんどいって言ってたのに今更「私も！」なんて言えない。