71話 ページ41
「私の前職ね、バーテンダーだったんだ」
Aの声は、どこか寂しそうだった。何かを堪えるような、苦しそうな声。けれど、風で彼女の髪がなびいて、彼女の顔を隠してしまった。だから、表情は見えなかった。
「この年齢で？ って思われるかもしれないけど。私の実家が……まあ簡単に言うとバーみたいなところで。だからそのおかげで知識は沢山あったのと、仕事がほしくて、お願いしたら許してくれた」
グラス拭きしかやってなかったけど、と彼女は続ける。もうすでに、声から寂しさは消えていた。
「ちなみにね、組合に所属してる人の一人がうちの実家のお得意先だった」
「え……!?」
「まあ全くそんな悪名高い組織だなんて知らなくて、だから君を狙ってる組織だったって知った時は本気で驚いたなあ」
「じゃ、じゃあそれって……」
「うん、まあ、知り合いと喧嘩することになるかもね」
あっけらかんと言い放っているが、それはかなり辛いことではあるまいか。けれど彼女は、慣れてるから、と平然と言ってのける。それは『誰かと喧嘩』することなのか、それとも『知り合いと喧嘩』することなのかは、何となく聞けずじまいに終わった。
そろそろ帰ろうか、と彼女が提案してきた。見ると、もう瓶が空になっている。そんなに長いこと話してはいないのに、度数の強いというウイスキーを一瓶空けている、そのことに気がついて敦は目をむいた。
「酔ってない？ 大丈夫？」
「私ザルなんだよねえ」
余計な心配だったようで、彼女は瓶を持ちつつよろけることなく立ち上がる。そのまま少しどこかをぼんやり見つめた後、敦さんはさ、と声をかけてきた。
「自分の異能が好き？」
突然の質問だった。真剣な様子だったので、こちらもきちんと返答せねば、とゆっくり答えを考える。異能が、好きか嫌いか。嫌いだと叫びたいような気もしたが、じっくり考えてみればそれだけで処理できるほど、簡単なものではないとすぐ気づく。もしも、この力がなかったら、あの時どうなっていただろう。この時は。あの瞬間は。
結果として出てきた答えは、あまりにも中途半端なもので。
「好き……ではないよ。これがなければ組合とかマフィアに追われずに済んだのかなあとか思う」
でも、と思う。それでも、自分は。ここ数日で実感した。
「この異能がなければ、電車の乗客も、鏡花ちゃんも助けられなかったのかなって思うと、あって良かったとも思うよ」
そっか、と彼女は呟いた。
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麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！！ (2021年5月22日 17時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - わー！！！！！更新されている……めちゃめちゃ嬉しい、、、、、これからも応援しています！！！ (2020年4月30日 22時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
こよひ(プロフ) - りか（かりんとう）さん» 遅くなってしまって申し訳ありません。お読みいただき本当にありがとうございます。私事なのですが、来年受験のためしばらく更新をするのは厳しいかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。 (2020年1月21日 15時) (レス) id: 38c890fd29 (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - とても面白いです！！続きがとても楽しみです。更新まってます……！！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こよひ | 作成日時：2019年5月2日 23時
