Last Joker brand new world 前編

side F ページ11

チクタクと進む秒針を睨みつける
時計の針はもうすでに、10分以上の時を刻んでいた

北山が戻ってこないことに不安を覚えて、こっそりと忍ばしたインカムに耳を澄ました


「きたやまっ…？」


小さく囁くも、応答はない
タキシードの裾に隠したリモコンを確認すれば、ボタンは緑色に点灯している


「おいっ…？」


再度囁くも、何も反応はなかった

俺のほうは作動しているのに・・なんで何も聞こえない？

向こうの、スイッチが切れているのか…
だとしたら、なぜ？

北山が切ったのか？それとも…誰かに…






『みなさまー！もうすぐ、後半戦の競売を…』


ステージ上の司会の男がマイクに叫ぶ
ボーイがシャンパンやフルーツを載せて歩き、観客たちがステージのほうへと視線を投げる

俺は、いてもたってもいられずに、人波を縫って廊下へと急いだ




曲がり角を曲がり、化粧室の方への歩みをすすめる

なにがあったのか

北山のことだ、何かあったのならば、必ず連絡してくれるはずだ

流石にトイレの中に入るわけには行かないが…



「っ？！」


化粧室の前の、ビロードの赤い絨毯が引かれた床
壁際に、有名ブランドのリップグロスが落ちていた


『千賀がさぁ、メイク道具も気合入れて、わざわざ高けぇの送ってきてて』


北山がそういいながら、突き出した唇に、不器用に塗っていたグロスは、このブランドではなかったか…

ふと、そんな光景を思い出すと、なぜかこめかみに、冷や汗が伝う



「ミスター、そろそろ競売が始まります…」


床にかがんだ俺に、後ろから黒服のボーイが声をかけた


「あっ…はい、大丈夫です…」


そのボーイの声を無視して、大ホールと反対側へと歩き出す


「失礼」


その瞬間に、肩をぐっと掴まれる


「そちらの廊下の先は、関係者以外立入禁止です。お戻りを」

「っ…！」


男の指先に力がこもる
有無を言わさない圧力

だが、あの扉の先に、もしかしたら…

そう思うと、迷っている暇はなかった


「すみません、ちょっと…」



内ポケットに手を忍ばせるふりをして、
黒服の男の手首をひねる


「っ！」


ドスッ！！！


一瞬で、男のみぞおちに拳をめり込ませる

力の抜けた男がドサッと、もたれかかる
人目につかないように、男を引きずって廊下の角の柱の影に横たえた


急がないと…




なぁ、なにが・・あった？

北山の無事を祈りながらも、不安で唇が震えた

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