それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

side Ki ページ14

藤ヶ谷の、記憶が戻った

ずっと、ずっと一人だけで抱えていた不安が、少しだけ軽くなったと同時に
あの忌々しい悪夢を、一番知られたくない藤ヶ谷に、もう一度再認識させてしまうという恐怖に、

俺は蝕まれたままで、押しつぶされそうだった






藤ヶ谷の驚いた表情が胸に刺さる



退院してきて病み上がりの人間に、家に付き添ってきただけの、俺が

抱いてくれだなんて

滑稽で、自分でも笑えそうだ



いや、でも、嘘でも、

今の俺には・・



藤ヶ谷の温もりが欲しくて

嘘でもいいから、愛していると言ってほしかった




あの日の黒い記憶をかき消すように

藤ヶ谷に触れて、全部なかったことにできるかなんて、そんなバカげたことを思った




藤ヶ谷は優しいから、俺が強引に求めれば、
きっと、哀れな俺を拒絶することなんてしない

少し戸惑ったとしても、可哀そうな俺を、偽りだったとしても、愛しているふりをして優しく抱いてくれるんだ


そこに、ひと掬いの愛がなかったとしても








「んっ・・」


藤ヶ谷が、優しく俺の素肌を撫でて、抱きしめてくれた腕が、温かくて、
その温もりの先を求めるように、細い首筋に自分から腕を絡めた



「きたやま、きたやま・・こっちみて」



藤ヶ谷のパーカーに、顔を埋めていた俺の頬をやさしく挟んで、
俺を見下ろしていた藤ヶ谷と目線を合わされた



「っ・・・・」

「もう・・泣かないで」



そういって、俺よりも先に、泣きそうな顔を歪めた藤ヶ谷が、
細長い人差し指で、優しく涙の痕を消すように、水滴をぬぐった


交わる視線


ただ、流れる沈黙の中で、

その空気を取り払うように



どちらからともなく、


唇を合わせた

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